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────人通りが極端に少ないとある路地裏。
そこにひっそりと佇む色褪せた扉の先に、地下へと続く階段がある。
クローズの看板かかけられた扉を開け、薄暗い照明で照らされた狭い階段を抜けた先には、一気に開けたフロアが広がる。
一言で言えば、クラブのような場所だ。
ただしどぎつい照明はなく、橙色の明かりがフロア全体をぼんやり染め上げる。
バーやダーツ、ボーリングにビリヤードと、娯楽会場も併設されたそこはまだ真新しさを残し、埃ひとつ見当たらない。
しかしここに一般客など来ない。
数ある娯楽も、頻繁に使われることはない。
それはここが、《黎》の集会場という利用目的のためだけに作られた空間だから、である。
………これだから御曹司の金銭感覚は……。
「相変わらず金のかけどころがおかしい場所ですね」
黒いソファ、黒いベッド、はたまた黒いチェアに腰かけた生徒会役員の中で俺だけが非常識な金使いに遠い目になる。
シックな内装に重厚感際立つ黒の床、黒い壁、そして壁の一面にはガラス越しに泳ぐ魚たち。アクアリウム。黒で統一された空間を、ぼやりと青白く染める。
ここは奥のVIPルーム。
またの名を《黎》の幹部専用作戦会議室。
今夜の招集を受け、《黎》の下っ端たちは下のダンスフロアにすでに集まり始めている。
「…───説明は以上だ。何か、質問は」
ことの始まりから今夜の招集の目的までのざっくりとした説明を頭の中に叩き込む。
あのませ中学生に事前に情報提供されていなかったら、今頃ここまで冷静ではいられなかっただろう。今しがた会長から得た情報とも、今のところ相違はない。
「要するにー」
「その《白蛇》ってチームの総長かー」
「《白蛇》全員をー」
「制限時間以内にこてんぱんにすれば僕らの勝ちなんだね?」
「「らじゃー」」
双子が楽観的に笑う。
まったく、呑気な愉快犯だこと。
ちなみに双子はトリッキーな攻撃に場を掻き乱すことに長けているから、サポート役に優れた幹部だ。危機感が低いのは難点だが。
「《白蛇》、ね。相当なキチガイ集団とは聞いてたけど、《黎》に喧嘩を売るなんて馬鹿だよねぇ」
「……んぅ」
そういうマツリも喧嘩が強い……というより、巧い。故に、言葉の節々に余裕が見て取れる。余裕が油断に直結しないタイプだから、特に心配はいらない。
この中で一番喧嘩が強いわんこなんて余裕通り越しておねむの時間。
ちなみにその一番強いタツキだが、根本が争いごとを好まない優しい気質なので痛め付けるような喧嘩はしない。
じゃあどうするかといえば、縄などで縛ったりして強制的に戦闘不参加に陥らせるのだ。普通に相手を倒すより手間で難しいことを平然とやってのける上によく応援として駆けつけてくれるので、チームの一員じゃなくとも尊敬の的である。
「直前ではなく、もう少し早く教えていただきたかったのですが」
「ぎりぎりまで知らねえ方が楽しいだろ」
会長あとではっ倒そう。
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