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暴走族同士の喧嘩が一体どうやって始まるかというと、《黎》の場合に限るが……トップ同士が行儀よろしく「テメェら潰します」「受けて立ちます」と承認を取った上で始まることが多かった。
というのも《黎》の連中は、不良のくせにお行儀が良く、野心の少ない人間ばかりでして。難癖をつけられようと、総長の許可なく勝手に喧嘩を買う人間がいないのである。
今回の喧嘩もこれまでと同じく。
今回相手となる暴走族──"ヘビ"、改め《白蛇》の総長サンに会長が直接コンタクトを取り、今回の直接対決に至ったのである。
発端は田中次郎(仮)が言っていたとおり、1ヶ月ほど前から《白蛇》が《黎》の人間に手当たり次第に喧嘩を売っていたこと。
王道が来て以来会長がたびたび不在だったのは、その現状を知り、情報収集と今夜の下準備をしていたから、だったらしい。
生徒会業務ほったらかして女遊びをしていたわけではなかったようだ。
いやあ俺はてっきり。
「最後に"ルール"のおさらいだ。勝敗はチームの全滅か、チームの総長が降参すること」
「「制限時間は60分!」」
「原則として、それぞれのチームカラーを身につけること。……まあ、向こうがそれを守るかはさておき」
「制限領域は、有刺鉄線で囲まれた巨大な廃工場区域内……でしたね。わざわざそんなエリアまで用意したんですか? ちゃんと許可は取ってあるんでしょうね?」
「当然だろ。街中で暴れられちゃあ後々面倒だ。相手は一般人も巻き込むようなイカれた集団だしな」
これらの『学園らしい』下準備を聞いて、思わず、笑ってしまった。
暴力と無秩序の不良の世界にも関わらず、まるで学級会みたいに話し合いの場を設けて、レクリエーションみたいに企画・運営して。
やはり《黎》は他のチームとどこか違う。
総長が会長のせいか。
そもそもチームを作ったのも、暇潰しの娯楽、学生生活の片手間、社会勉強の一種、などと言っていた覚えがある。
さて、ここからが本題。
《黎》の要求はひとつ。
二度と《黎》に関わらないこと。
《白蛇》の要求はふたつ。
王道───佐久間ルイを口説いた生徒会の人間の、『強制参加』。
及び。
佐久間ルイの『返却』と、『幽閉の解除』。
…………いや、返すも何も。
幽閉どころか拉致さえしてねえよと。
どうやらイカれ集団との酷評の通り、王道が《白蛇》のヤツらに黙って学園に入学した理由が、被害妄想を爆発させた《白蛇》の認識では、学園の生徒会が王道を誘拐したせい、になっているらしい。
つまりはただの逆恨みである。しかも見当違いの。
それらを聞いた俺の感想はこうだ。
「馬鹿しかいないんですね」
「例外なく全員馬鹿だ」
今夜の敵対チームである《白蛇》という族は、王道に心酔するヤンデレの巣窟らしい。
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