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 《黎》には一応、名ばかりの副総長がいる。  チームの一員というより、情報屋としての活動が主ではあったが。  国内国外問わず飛ぶフットワークの軽いあの放浪癖は、一応、俺の知己にあたる。  最近ではすっかり連絡も途絶えてるけど。  ……しかし、予想外にも。  金持ちでも無敵でもないただの成り上がり幹部の上あっさり辞めた俺のことを、案外、慕ってくれてるやつらは居てくれたらしい。  なんというか、面映ゆい。決まりが悪い。でも嫌じゃない。  首の後ろがもぞもぞする感覚。  と思ってたら本当にわんこが俺の首元でもぞもぞしていた。犯人はお前か。  立ったまま頭を俺の肩に預け驚異のバランス力で夢現をさ迷っている。危機感より眠気か。この犬科計り知れん。  「ああさすがブリーダー!」などの尾鰭も背鰭もついた誤解はひとまず置いてわんこのふわふわ頭を撫でた。  チームを抜けた俺がわざわざここまで来た理由は《白蛇》が提示した『強制参加』を飲んだ結果だ。そこは、王道への好意を偽り続ける罰として甘んじて従う。  だが、王道のことが嫌いなのに生徒会役員という理由だけで駆り出されたタツキには同情する。  よく参加したな。とばっちりも同然なのに。 「そろそろ時間だ。お前らは作戦通り持ち場について、指示を待て」  了解、という意味の返事をそれぞれで行う。  時刻は9:45。今回、《黎》は待ち構える側として先に足場を確保できる。  有利か不利か、どちらに傾くかは状況次第だ。  一斉送信された廃工場区域の地図を再確認。総長である会長は一番安全な最奥……と見せかけて中心部で待機。  他の幹部はうまく散らばっている。  俺といえば入口から一番遠い廃倉庫。  中心地から遠ざけられてる気もするが、これも作戦のひとつらしいので文句は言わない。  しかしふと、携帯の画面に影がさす。  顔を上げると会長が俺を見下ろしていた。腕を組み、真一文字に引き結ばれた唇。  些か、険しい表情。そう思った矢先、そっと耳に唇が寄せられた。  いっそ触れそうな近さにピクリと肩が跳ねかけたものの、突っぱねる雰囲気でもないだろうと判断して踏みとどまる。  ナイショ話ならできるだけ周りに悟られるわけにはいくまい。表情筋もしっかり立て直す。  ぞくぞく、吹き込まれた吐息と共に粟立つ肌はいっそ無視し、耳を掠め、そして脳で噛み砕いた言葉は、俺の思考を数秒止めるには十分なものだった。 「絶対とは言わねえが………半々の確率で、お前のところに来る」 *

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