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いくらこの廃倉庫が入口から遠かろうと、さすがに20分もあれば一人や二人、ここを訪れても不思議じゃない。
耳を澄ませば喧騒が聞こえるのだ。ゲームは着実に進行しているはず。
しかも俺は別に隠れてないし、何よりぼっちだから端から見りゃ格好の餌食。
それなのに誰一人として来る気配がない。
「………」
そろそろ、この廃倉庫が亜空間に繋がっていた可能性が濃厚になってきた。
頼む、誰か来てくれ。
背後から迫られたらちびると思うから正面から正々堂々ここを訪ねてくれ。
それかもういっそ敵対するの辞めて皆家に帰ろう。
《白蛇》と書いてホワイトヘビー(笑)と読むらしい黒歴史ネームには正直失笑を禁じ得なかった俺だが、結局は《黎》も《白蛇》も同じ穴の狢。仲良くしようまじで。
「-っ、!? 、な、なんだ、電話か……」
絶賛挙動不審の最中、ヴヴ、という振動に素で驚く。あぶねえ、くちから心臓が転 び出るところだった。神経と聴覚が過敏になっている。
あせあせと震える指で開いた画面に記された名前は「クロ」。
マツリだ……心の友………。
「はい。どうしました?」
『暇だから声聞きたくなっちゃった』
彼女か。もしも俺が襲撃されてる最中だったらどうしてたんだこのチャラ男め。
『そっちもまだ変化なし?』
「ええ。正直…………暇でして」
『暇だよねえ』
のほほーんとした空気が取り巻く。
いや、だってマジで誰も来ねんスもん。
かと言って持ち場は離れられないし、会長の予想があるから気は抜けない。ただ、肝は無駄に据わっているので、慌てふためいて隠れるほど精神的に脅 かされてはいないし、常に気を張り詰めるほどの緊張も感じていない。
それよりこういうシチュエーションってどういう気持ちで待ち受けてたらいいの? ラスボス風に憮然としてた方がいい? そのあたり全然考えてなかった。
『……気をつけてね?』
電話越しに潜められた声が、やけにクリアに耳へと入る。
もしかするとこいつは、会長の耳打ちを見て察したのかもしれない。半分の確率で、俺が狙われると。
俺の予想が正しければ、もう半分は双子だ。二人はセットで行動してるからまだ安心ではあるが。
ひとまず大丈夫、と笑っておく。
マツリの用件はそれだけだったらしい。
後でまた、と言葉を残して通話を切ろうとする相手を一旦引き留める。
こいつには聞いておきたいことがあった。電話の方が、俺としても都合がいい。
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