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「……マツリ」 『なーに』 「今月の、《月例会議》で」 『うん』 「釘を刺されました。風紀委員長に」 『へえ。それで?』  特に、声色に変化はない。  マツリが志紀本先輩をやけに敵対視してると俺が”気付いている”ことに、おそらくマツリも”気付いている”。  だからあえて、相手の顔が見えない電話で尋ねる必要があった。───今夜の招集の名目を考えれば、別段突飛な話題でもない。 「ルイへの………例の一年生に対する生徒会の態度を、改めろと」 『ふうん』 「マツリは正直なところ、どうなんですか。ルイと本気で付き合いたい、とは……」 『───まるでオレが本気じゃない、みたいな言い方だね?』  だってお前、基本スタンスが遊び人だもの。王道とか関係なく誰にでも声をかけるんだもの。  要は、こいつの「本気」が疑わしい。  今月の《月例会議》で結局保留になっていた、生徒会役員側の王道への措置。  あのあと俺は園陵先輩と直接アポを取り、「生徒会それぞれが親衛隊を煽るような過度な接触をしないよう、ほかの役員にも内輪揉めしない程度にそれとなく働きかけてみる」と約束した。  手始めとして、役員がそれぞれどういう心境なのか、この期に明確に把握したい。  友愛にしろ恋慕にしろ、本気で王道と交流を持ちたいというなら俺は何も言わないが、違うなら口出しさせてもらう。  特に会長やマツリに関しては、普段の節操が節操なだけにどうにも遊び感覚のような気がしてならないのだ。 『リオちゃんはどうなの』 「聞き返すのはずるいですよ」 『リオちゃんが答えたら、答えるよ』 「……絶対ですからね」  もちろん相手だけに答えを求めて自分が答えないのはフェアじゃないので、解答は準備できている。  元より、王道への態度をどうするか俺自身が曖昧にしている自覚はある。流れに身を任せているともいう。  園陵先輩は、風紀側としてもすぐの解決は見込んではいない、問題沈静化への前向きな姿勢があるだけで今は十分理解を得られるはず、と励ましてくれたけれど、俺も俺で方針を固めておく必要があると思う。  腹を割っては話せずとも、隠すばかりでは物事は一向に進展しない。 『…………ゴメン。ちょっとコッチ、ごたついてきたかも』 「……」  という俺の決断はあっさりぽっきり挫かれる。  仕切り直そうにも今は状況がそれを許してはくれない。携帯の向こうから聞こえる、複数の金属音。  《白蛇》の連中は武器を常時持ち歩いているともきいた。マツリのことだから大丈夫だとは思うが、もしものことがないといいのだけれど。 「怪我、しないでくださいね」 『………あ、……うん』  なんで志紀本先輩の名前出したときとは比較にもならないほど分かりやすく動揺してんですかマツリさん。  今のけっこう、素で驚いてたろ。お前。  俺が心配すんのってそんなに意外? 別に裏はありませんって。いくら腹黒と名高い副会長といえど。  釈然としないがとりあえず通話を切る。ポケットへと納め、大きく深呼吸。フードの先をつまみ、さらに目深にかぶりなおした。  さあて、と。 「───お。見っけ」  こっちも暇ではなくなってきたようだ。  

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