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 一番に思い浮かぶ方法は、やはり暴力。  チームから数ヶ月離れていたといえど、相手の方がはるかに格上だと分からないほど俺の感覚は衰えていない。  相手も十分にそれを理解している。だからこそ効果的な脅しとなる。  けれど俺にだって俺なりの意地はある。  脅迫ひとつで簡単に友達を売るような薄情な人間、とでも思われていたら心外だ。  そんなちっぽけなプライドが、俺から慎重さを奪う。 「………何をされようと、学園の生徒や学園に関する情報を部外者にお教えすることは、できません」 「……」 「ご自身を野次馬だと仰るのなら、最後まで蚊帳の外にいて下さい」  ああ、言い過ぎたと、それをはっきり自覚したのは、相手の大きな掌がぐわりとこちらに伸ばされた瞬間。  指節の長い無骨な手が、黒い影が、頭上から迫る。  見えない重力で抑えつけられたようなプレッシャーを感じて、無意識に息を詰めた。  ぎゅうと、両の瞼を固く瞑る。  襲い来るだろう暴虐への覚悟を固める。 (…───殺られる!)  奥歯を噛みしめ腹を括った。刹那。 「…………っ、クク、……毛ェ逆立てた猫みてぇだなァ、あんた」  訪れた衝撃は拍子抜けするほど柔らかいものだった。  ぽん、と軽やかな動作で乗せられた手。  そのままくしゃくしゃと髪を掻き乱されて次第に鳥の巣と化す俺の頭。  ぱちぱちと、数度瞬きを繰り返す。  状況の変化に頭の処理が追いつかず、俺の頭をぐりぐりと揺り動かす大きな手にされるがままになる。  ピリピリとした空気は呆気なく霧散した。俺を今にも押し潰さんとしていた圧力は見る影もない。  前髪の隙間から恐る恐る見上げた、その先には。 「脅かしちまってゴメンな? あんたがあんまり警戒するもんだから……ちぃと意地悪しすぎた」  屈託のない、あどけない破顔がそこにあった。  荒々しい雰囲気と精悍な顔立ちを途端に覆す、朗らかで幼さを残す笑顔。  対する俺はといえば、同年の相手からなかなかされることのない………言うなれば子供扱いに、どう反応したらいいのか分からず固まるばかりだった。 「……紘野、トモダチとか作るタイプじゃねえから、あんたに友人だって答えられても、正直、嘘なんだろうなって思った」 「……」 「でも、紘野(あいつ)と初めて会った時のコトを思い出してな。……もしかしたらあれは、あんたのことを言ってたのかもなって」 「え……? あ、の、ちなみになんと、」 「『服を汚しただけでいちいち小煩いやつ』」 「……は?」 「『怪我のひとつで騒ぎ立てる面倒な相手』」 「はああ……??」 「はは、あんた見るからに頑固そうだし、イメージぴったり」  クッッッッッソ紘野あの野郎、俺のこと一体なんだと思ってやがんだ。普通に悪口じゃねえか。  クリーニングに出して返してやろうと思ってたけどやめた。あいつの服なんて手洗いで十分だちくしょう、ばか、紘野のばーーーか!!!  

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