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 過剰な警戒心も時と場合と人を選ばなければならないなと、反省しつつ。  この身長差だし、遠いし、一直線上にいる長髪の人からはアカリさんの背中に隠れて俺の顔は見えないだろうと踏んで、いろいろな謝罪を込めて、小さく頭を下げた。 「支倉、と申します。……先ほどからの非礼を、お詫び申し上げます」 「ん、全然気にしてねえから、いいよ」 「私も正直、あなたを疑ってました。……けど、信じますよ。紘野と仲良くしてあげて下さいね」 「……ッはは! やっぱあんた、面白れーな」  蚊帳の外にいろ発言とか。  警戒本能剥き出しの態度とか。  相手に不快感を与える言動だったことは自覚がある。  しかしながら今夜の俺は、例え一度辞めていようと《黎》の一員として呼ばれている。  あきらかに強者だと思われるアカリさんがもしも俺の態度が悪かったせいで《黎》に反感を抱いたら、今度はチームを巻き込んだ対立に発展するかもしれない。  俺ひとりの責任では留まらない事態を招く可能性もある。  そんな展開はまっぴら御免だ。  無秩序な世界だからこそ、礼節や上下関係はきっちりしなきゃならない場合もある。 「あんたイイコそうだし、ちょっと気に入っちまったな。…───何ならあいつら、代わりに片付けといてやろうか?」  野性味ある美貌にシニカルな笑みが浮かぶ。逆光のなか、一対の瞳だけが爛々と妖しく光をうつしている。  そしてその表情のまま、低められた声。横に流された視線。  俺でも気付くほどあからさまな気配なのだ。この人が気付かないはずもないだろう。 「いいえ。これは《黎》が買った喧嘩です」  俺の返答を予想していたのか驚かれることもなく、そうかい、と笑みを浮かべたまま呟き、アカリさんは俺に背中を向けた。足音ひとつたてず、この場から遠ざかっていく。  たった今自己紹介をし合った仲といっても、よそのチームの人間に容易く背を見せられる豪胆さが恐ろしくも羨ましい。  入口に佇む長髪の人は俺を疑り深く注視していたものの、特になんのアクションもなく。  こうして謎の二人組は廃倉庫を去っていた。  気配が遠ざかり、再び静寂が戻ってくる。  直後。  カランカラン、と、金属バットとコンクリートが打ち合う甲高い音と複数の足音が、だんだんと背後から近づいてくる。  ああ確かここには裏口があったなと、頭の片隅で設計図を思い浮かべながら背面を振り返った。  フードの下で認識した、足の数は計8本。4人だ。  開始からそろそろ半刻が経過しようという頃合い。ようやくお出ましかと胸中で呟く。  敵対者の薄ら笑いが、直視せずとも声の抑揚で伝わってくるようだった。 「ターゲット、はっけーん」  

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