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 《白蛇》の総長、並びに幹部クラスの情報は作戦会議の最中に配られた資料で身元までばっちり把握済みだ。  総長が一人と、幹部が三人。  顔写真はもちろん名前から在学校、現住所や家族構成に至るまで特定している理由については、ひとえに武力行使以外での最終手段を使わざるを得なくなった場合のためである。  しかしまさか、四人全員が総出でここに来るとはさすがに思っていなかった。引きの悪さに頭が痛くなる。  相対する背格好と、記憶のなかの顔写真を照らしあわせる。  王道が美形ホイホイなだけあって、まあ人相はアレだがどれも顔は悪くない。  大柄な《白蛇》の総長は逆立てた緑髪。  それから幹部クラスは刈り上げの赤髪、ベリーショートの青髪、剃り込みが入った黄髪。夜なので髪色の差がわかりづらいが、日の下で見たらそれはもう地頭の悪そうなカラフル集団に見えただろうなあと思う。 「キミが《コウ》で、学園の副会長とやらで間違いあらへんよな?」 「……」  最初に口火を切ったのは《白蛇》の総長。やけに耳にまとわりつくようなねっとりとした喋り方。関西弁。  俺が《コウ》で、さらに副会長だとすでに見当をつけている……やはり、イカれてるといっても相手もそれなりに馬鹿ではないのだろう。  この倉庫は響く。  こいつらがいつココに辿り着いたかは知らないが、先ほどアカリさんとの会話のなかで「《黎》の幹部」と認めた以上、学園の生徒会役員だと認めたにも等しい。  さらに背格好からして、《闇豹》でも《クロ》でもアオ兄弟でもない、とくればあとは消去法。  しかしコウ=副会長という正体まで割れていることに関しては……保留だ。  何にせよ、こいつらに名乗る気はない。  フードを深くかぶりなおし、神経を尖らせる。 「素直に従ってくれるとは思わん。ちぃとばかし、拘束させてもらうで」 「はン。これがルイを最初に口説いたヤツ?」 「拍子抜けだな。楽勝だろこんなひょろいの」 「総長、拘束なんて温いこと言ってないでここで痛めつけちゃいましょうよ」 「お前ら落ち着きぃ」  話の方向性としては確実に俺のフルボッコ。  しかしここまであけすけだと、かえって気が楽というか。三人の幹部を宥める関西弁の総長サンが唯一マトモそうだ。 「もーちょいオツム働かせ。痛めつけるだけなんて手温いわ。ルイに近付いたヤツらの前でこン副会長ふん縛ってせいぜい絞り取れるもん絞り取った後は雁首揃えて全員地獄に堕ちて貰う。純粋で可愛えルイを穢した、当然の報いや」  ……マトモそう? 撤回する。  これが取り扱い要注意で有名なヤンデレか。リウが大好きなヤンデレ攻め。  どうやら俺を人質にして会長たちに揺すりをかける腹積もりらしい。  いやまあそう簡単にコトがうまく運ぶとはこれっぽっちも思わないが、聞いてもないことをすらすら話してくれる親切なヤンデレさんなので黙って耳を傾ける方針で行こうと思う。 「ルイにちゅーなんぞかましよったおたくらの総長は死んでも許さん。すぐにでもブチ殺したいわ。せやかて、正当法で攻めたところで結局は、金持ちの権力には適わへんし」 「……」  テメェらなんぞ金が絡む前にはっ倒せるわ舐めてんのかあ゙あ? というのが感想。  確かに社会的権力を持つ人間が相手というのは、それなりに懸念材料ではあるだろう。  でも別に、チームの仲間は金で雇ったわけじゃない。武器を買っているわけでも、権力にものを言わせて脅しているわけでもない。  だというのに「金持ち相手じゃなかったら俺らが勝てんのによぉ」みたいな言い方は腹が立つ。金なんぞなくとも実力で勝てるんだよボケが。  

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