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長く息を吐いて、苛立ちを霧散させる。
ここで冷静さを欠けば相手の思う壷だ。四の五の考えても仕方がない。まずは隙をうかがえ。
俺にも他のメンバーにも一番被害のない方法で場を収められるよう、チャンスを逃すな。
「……すまんな。皆、ルイが大事なんや。せやからどうしても体が先に動いてまう。頭では正当性に欠けるって気付いとっても。ルイのためや思うたら、そない細かいことはどうでもええと思えてくる」
要するに、恋愛脳に陥った頭お花畑集団のごくごくありがちな今回の逆恨みは、総括すると『ルイのため』らしい。
俺や俺に関わるものを巻き込まない限りはもう好きにやれとしか。
とりあえずこの総長サンについては、中傷ばかりの幹部三人と違って自分らの行為が正当ではないと解るだけの客観視と判断能力は残っているらしい。
《白蛇》の組織形態は暴力による支配。ヒエラルキーは絶対で、総長の命令が絶対。つまり彼さえ心変わりすれば、和平的解決も見込める。
ならば対話という糸口も、下策ではない。
「だから、キミにはルイのために、犠牲になってもらわなあかんねん」
ただ、彼らの現状を見て、聞いて。
これはお前のためにやったのだと言われて。
王道は───佐久間ルイは、本当に。
嬉しい、のだろうか。
「ほな、大人しく着いて来てもらおか」
そう、思いはしても……それこそ俺には預かり知らぬコトだと、浮上した疑問を早々に切り捨てた。
現実は刻々と過ぎる。
前一人、後ろ二人、幹部が一定の距離を保って俺を包囲し、総長サンの後に続いて歩けと急かされる。
入口に向かい先頭を歩く総長サンの目的地は、恐らく会長がいる場所。
その前に事態を収束させなければ。
抵抗や対話がかなわなくとも、最悪、逃げればいい。敵前逃亡はあまりやりたくないが、人質になってチームの連中の足を引っ張るよりはいくらかマシだ。
《黎》の連中は何だかんだで情が深いから、俺が捕まったと知れば手を出せなくなりそうだし。
思考を巡らせる。
故に後方への警戒が、疎かになった。
「…………総長はあんなこと言ってっけど、俺はテメェも気にくわねえな」
歩を進める最中、後ろに控えていた刈り上げ幹部の不穏な気配を感じ取って反射的に距離を取る。
十分な距離を確保したと思ったのも束の間。ひとつだけ計算外の要素 ───金属バット。
「人質なんて関係ねえ。俺はルイに関わったヤツを全員、順番に、片付けたいんでねッ……!」
ぶん、と振りかぶられた凶器が、月の光を乱反射してぎらりと凶悪な色を放った。
この位置、この長さ、このスピード。
完全には避けられない。
「──ッ、おい! 怪我さすな言うたやろ!」
鋭い制止の声が入ったところで、もう遅い。
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