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 ガキィ……、と。  嫌な、音が。 「…───!! ッ-、………総長…っ!」  会長、と呼びたいのを直前で抑え込む。  叫んだ声は語尾が掠れていた。  訪れる痛みに身構えた俺の目の前、立ちふさがり、俺と刈り上げ頭を隔てるように身体を滑り込ませた黒い影。  振り下ろされた凶器を受け止めた、右腕。  鈍い音。  衝撃。  小さく息を詰めた気配。  目を見開いて、口を開いて、けれど音は何も乗らなかった。  言葉を吐き出そうにも喉奥でつっかえて、ただただ酸素を循環させるだけ。自分の身体ではないかのように、うまく操ることができない。 「……総、長、」  咄嗟に支えようと伸ばした指先は宙を掻き、かたかたと震える。  しかし会長は、必要ないとばかりに、大して崩れていない姿勢を正し、前を見据える。 「、ヒッ」  その先で、会長と目があった刈り上げ頭がじりじりと後ずさった。  怪我の直後とは思えない、痛みなど欠片も表情に表さない横顔。こんな状況ではなかったら睨まれていないこちらでさえ威圧されるほどの。  でも。でも。  何を、してくれやがった。  バカじゃないのか。本当に、馬鹿じゃないのか。  どうして───あんたが、庇うんだ。 「---堪忍」  沈黙を破り、真っ先に声を発したのは意外なことに、《白蛇》の総長サンだった。  刈り上げ頭の金属バットを取り上げ襟首を掴み上げると、会長を見て軽く目を伏せる。 「攻撃せん言うたんに背後から襲うような真似してすまんかった。コッチできっちり落とし前つけるから安心しい。後で詫び入れさすわ」  《白蛇》の上下関係は暴力によって決まる。強い方が上で、強い者が絶対。  俺に攻撃しない、という総長命令に背いた人間は、例え幹部だろうと咎める対象。見かけの胡散臭さによらず、そのあたりはちゃんと筋を通してくれるらしい。  素直に謝罪を口にできる潔さに、印象は多少変わった。  ただし。ただし、だ。 「……少し、お待ち下さい」  会長の前、数歩、歩み出る。  会長の制止の声は聞き流すことにした。  フードの下、見える口許だけで、《白蛇》の二人へとにこやかに笑いかける。  あくまで丁寧に。あくまで友好的に。  「副会長」の、作り笑い。  ずっとシカトを決め込んでいた俺が初めて話しかけたことに総長サンは最初こそ驚いていたものの、この愛想笑いを見て、俺の雰囲気の軟化を感じ取って、警戒心をわずかばかり緩ませた。  その油断は、見逃してやらない。  

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