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「詫びなんてする必要ありませんよ」 「……ええんか?」 「はい」  何故なら。 「落とし前なら……───ここで」  一歩、踏み込み。  その拍子に、ふわりとフードが外れる。  涼やかな夜風が頬を掠める。毛先が後方へと流れる。  気にする余裕など自ら捨てた。  総長サンの隣、襟首を掴まれたままバツが悪そうな顔で突っ立っつ刈り上げ頭の右頬を、防御の暇を与える前に左手(ききて)でひっ叩く。 「っ、ツ゛……!」  パン……! 、と響く乾いた音。  驚いた総長サンが反射的に刈り上げ頭の襟首を離した。  視界がブレてバランスを崩した刈り上げ頭の体勢が整う前に、頬を叩いた流れでぐるりと身体全体を時計回りに一回転させ、その勢いのまま鳩尾へと回し蹴りを喰らわせる。  平手打ちはただの目眩まし。  急所を狙った腹の方は決して手加減していない。  濁音混じりの呻き声を上げた刈り上げ頭は、狙いどおり総長サンがいる方へ倒れ込んだ。一緒に地面に転倒まではしてくれなかったものの、総長サンの足止めとしては十分。 「テメーやんのかアア!?」 「ぶっコロス!」 「ッアホが、お前ら止まれや!!」  ───ひとがせっかく、和平的交渉を視野に入れていたというのに。  いきりたつベリショと剃り込み頭がバットを振り上げて突進してきた。  先にこちらに到着したベリショがバットを振りかぶるが、それさえ避けてしまえば後は容易い。がキィンとコンクリートの地面を叩きつけたバットを上から踏みつけ、怯んだところでまずはバットを握る手に手刀。  武器を手放した隙にすかさず男の急所を蹴り上げる。  そのままもんどりを打って倒れたベリショを見下ろし、足元の金属バッドを遠くへ蹴り転がした。それだけでビクリと震えるくらいなら、はじめからこんなモノを喧嘩の場に持ち込むべきじゃない。  あとひとりが来ないと思ったら、剃り込みの方は会長がすでに地に沈めていた。俺を見て呆れたような諦めたような、形容しがたい顔をしている。  一睨みしておいた。  くるりと振り返り、地面に両手をついて苦しそうにえづく刈り上げ頭の後頭部を冷めた目で見下ろす。  俺が近付いた段階で警戒さえしないとは甘過ぎる。舐めてんのかとすら思う。  こちとら暴走族歴はたかだか3ヶ月だが、護身術歴は丸10年。  王道に関わった人間を全員片付けたいと豪語するのであれば、最初に口説いたヤツの足癖の悪さくらい把握していろと言ってやりたい。 「……俺の前で、あの馬鹿に手前勝手に怪我させてんじゃねぇよ」  ほぼ唇を動かしただけの、周りには聞こえない程度の声量を意識して吐き捨てるように告げる。  そして、信じられないといいたげな顔でこちらを見下ろす総長サンには、とびきりコケにした顔で笑いかけた。  落とし前はコレで十分だと、言外に告げる。 「……、…なんやキミ。フードの下、ほんまに、えらい別嬪さんやないかい…」  そんな俺をまじまじと見下ろした総長サンは数秒息を詰め、ふと微苦笑を漏らす。  どこか、複雑そうな表情に見えた。けれどその独り言めいた感想にも鼻で笑って、ふいと視界から外す。  元よりどうでもいい相手だ。それ以上も以下もない。  

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