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比較的清潔な背の低い廃材の上に会長を座らせ、《黎》の下っ端から救急箱を持ってきてもらう。
呼び出したらすぐに駆け付けてきた対応の早さを訝しんだものの、俺が通達した時点ですでに廃倉庫の近くに数十人ほど集まっていたらしい。
しかし会長に「待て」と言われて大人しく待機していたようだ。
そんな下っ端たちをよく見てみれば、先ほど俺を裏のドンだなんだと騒いでいた人物の一人である。
「脱ぎやすい季節になってきましたね!」だの「総長の身も心も手当てをはあはあ」だのと、震えながら差し出された救急箱は正直使いたくないが、背に腹は返られぬと、ひとつ礼を言って受け取る。
下っ端に席を外すよう促し、それから会長の前に跪くと、怪我した方の腕を出すよう催促した。
「……おい。膝、汚れんぞ」
「それが何か」
「服が汚れるのはイヤなんじゃなかったか?」
「服が汚れるからチームを辞める、とは言いましたが、汚れたらイヤとまでは言ってません」
「……あァそうかい」
黒手袋の出口に指をひっかけて、するりと外した。
穢れた手袋はそのまま地面に放り捨て、差し出された会長の腕に触れる。
しばらくは、無言の空間が続いた。
俺は手当てに集中し、会長は腫れ上がった自分の腕をただただ黙って見下ろしていた。
骨への異常も視野に入れながら、まずは腕を固定する。患部に新品のガーゼをあてて、長く細めの懐中電灯を添え木代わりにして、白い包帯をその腕に巻いていく。
会長にぶつけたいことは色々ある。怒りだとか、後悔だとか歯痒さだとか。ぐちゃぐちゃに絡まった感情を解きほぐして整理しつつ、口を開いた。
俯きがちに紡ぐ声は、どこかふてくされたようなソレ。
「……私は基本的に、あなたのことをただの無節操で歩く18禁でサボリ魔で偉そうで絶倫で俺様何様野郎で一度問題起こして停学になればいいのにと思っています」
「………オイ」
呆れたように挟もうとする口を、相手の手首を緩く握り締めることで制する。
「正直なところ尊敬したことは無きに等しいです。あなたがサボれば仕事は溜まるし放っておいたら面倒を起こすしかといって喋っても面倒だしドン引きするほど偉そうだしよくよく考えるとどこをどう敬えばいいのかまったくもって分かりません」
「……さっきから黙って聞いてりゃ、」
「ただ」
「………」
「今後いっさい」
「……」
「私の前で、……私のせいで、怪我なんかしないでください」
無意識に、懇願が声に混ざった。
唇を噛む。
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