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庇ってくれてありがとうございます、なんて台詞はとても言えない。
自分がチームの弱味だと思われたことが悔しい。
相手からナメられたことが悔しい。
庇われたことが悔しい。
俺の代わりにみすみす怪我を負わせてしまったことが悔しい。
自分の非力が歯痒くて仕方がない。
「……履き違えるな。俺が起こした行動の責任を負うのは俺自身であって、お前じゃない」
「……」
それがあんたの信条だとして、じゃあ俺の、プライドはどうなる。
俺を庇って怪我をした腕が己の自業自得だと、何故それを今俺に言える。
「理解は、しています。……それなら。そう、仰るのなら」
差し出された会長の右手首を強く握りしめ、跪いた状態で見上げる。
本来こんな、あからさまに屈したような体勢で言うなんて俺の性格上ありえないけれど、これから告げることは正しく懇願。
だから一時の辛抱だと、己の矜持をなだめる。
この人はきっと、俺にここまでさせるほどの頼み事を、突っぱねはしないだろうから。
「『私が足を引っ張ったせいであなたに害が及んだ』、なんてことを…───私に、思わせないで下さい」
俺は、「副会長」だ。
たとえ役職上だけのつながりだとしても、この男を常に手助け、傍に控えることが俺の仕事だ。
だから、下を庇ったことが呼び水となって上にも被害が及ぶ、などということが、あってはならない。
この男が許しても、俺が俺を許さない。
つまりは、「俺に恥をかかせないでくれ」と、いっそ傲慢にも取れるお願いをしている。
「……。人に甘えるのが下手くそだな、お前は」
「…………余計なお世話です」
そうだ。ただの甘えだ。
こんな醜態、本来なら誰にも曝したくない。
「お前の言い分は、わかった」
「………」
「だがな」
会長はその碧い眼を細めて笑う。
深き蒼の光沢を放つ濡れ羽色の髪が、廃倉庫に降り注ぐ月の光を受け、神秘的なアオを帯びる。
見上げる俺の眉根はきっと、ざっくりと皺を刻んでいることだろう。
「今後もし、同じようなことがあったとしても、そのときも俺は迷うことなく今夜と同じ行動を取るんだと思う」
なんて、自分勝手な。
本当に非道い男だと、胸臆で毒を吐いた。
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