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今夜の喧嘩は《黎》が完全に征した。
こちらのチームは会長を除きほぼ無傷、あちらのチームはほぼ全滅。
敵チームに満身創痍の人間がさほど見当たらないあたり、《黎》の連中は交戦よりも早々に降参へと持ち込む戦法を選んだらしい。何にせよ《黎》が圧倒的に相手を上回ったことに相違ない。
だがしかし。そんなことよりも。
「……会長」
「わかってっから。そう急かすな」
帰りの車内にて。
振動の一切を殺す対面式のソファの上で、俺の挙動は忙しない。
宥めようとする隣の会長は、一時間以上、応急処置が施されただけの腕を組んで座している。
痛まないわけがなかろうに、眉ひとつ動かさない忍耐は我慢強さからか、それとも麻痺でもしているのか。
常にない俺と会長の様子を見て、他の4人は一言も喋らず俺達の様子を窺っていた。
何度か聞きあぐねて口を開閉するところを見るに、俺の通達と、会長の怪我からある程度の事情は勘づいているのだろう。
あの後。
自分のジャケットを回収し、再度全員で集まり、会長がチームの連中に犒いの言葉をかけ、解散後ようやく病院で看てもらえるかと思ったら「学園に帰る」と来た。
当然抗議したが、梃子でも主張を曲げない会長にこっちが折れるはめに。
やけに長く感じた道のり、掻き立てられるような焦燥に苛まれ続けること一時間半以上。
帰ってきた学園の敷地。
美しい星空など目もくれず、運転手が動く前に会長の怪我をしていない方の腕を引いてリムジンから降車する。
「ほら、早く、会長」
「急に引っ張んな」
「「二人とも、ちょっと待っ──」」
双子の、引き止める二重の声に取り合わなかったことはどうか大目に見てほしい。
一刻も早くと焦りが先行し、俺にも余裕がなかった。
目指す先はひとつ。足早に校舎へと入っ、て………………あっ暗、
「会長、先歩いて下さい」
「は? 急にどうした」
「なんでもないです」
「わかった、わかったから押すな」
「どうしてフットライトしかついてないんですか。しかもセンサー式。すぐ消える」
「0時を回ったからな………なあ、」
「はい?」
「さっきから俺の服の裾を全力で引っ張るこの手はなんだ」
「知りません」
「お前の手だよな」
「私の手ですが」
「震えてんぞ」
「……」
「お前もしかして怖、」
「はやくいきましょう」
「……コラ、あんまりくっつくな。襲われたいのか?」
「くっつかれたくないならさっさと歩いて下さいよ」
「くっつかれたくないとは言ってない」
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