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「全治二週間ってトコ」  まさか学園きっての個人的地雷区域に自ら足を踏み入れるハメになるとは予想外。 「骨にもまったく異常はねェよ。ピンピンしてらァ」 「そうですか……」 「チビの頃にこつこつ飲んでた牛乳がしっかり影響されてるみてェでオニイサン嬉しィぜ」 「余計なこと言ってんじゃねえ」  夜の第一保健室。  というAVやホラー映画のタイトルにでもなりそうなこの場所を、夜中にも関わらずLEDライトの光が眩く照らしている。  夜の暗がりに慣れた目にその白さはいささか刺激が強い。  第一保健室は前回来た第二よりも格段に広く綺麗だ。  木目調のリノリウムの床は清潔に保たれ、設備も調度品にも金がかかっている。そのうえ待合室・処置室・ベッドルーム・さらには個室と区切られており、有線から流れるのはしっとりとしたクラシック。  とっくに時間外どころか深夜の時間に養護教諭が何故まだ保健室にいるのか。  その理由は会長が電話で叩き起こしたせいに他ならないが、掻い摘まんだ説明にふたつ返事で保健室を開けてくれた養護教諭には感謝しかない。  寝起きの怠惰な色気をまき散らす大人も、白衣に袖を通せば仕事モードに入ったらしい。会長が養護教諭から看て貰う間、俺は大人しく会長の後ろに控える。  見た目は腫れがひどく痛々しいが、どうやら長期的な療養を要する大怪我でもなさそうだ。ひとまずは胸を撫で下ろす。 「こいつ痛くてもなんの反応もしねェから愉しくないんだよなァ」 「治療に愉しさを求めんな、エセ保険医」 「なァ、副かいちょォは痛いとき素直に声に出す? それともガマンする? オレの予想は後者なんだが」 「……、」 「……。怪我の話だよな」 「奏ェ。お前チョット想像したろ。やらしいコト」  唐突に投げかけられた軽口を受け取り損ねる。養護教諭はそんな俺をちらりと仰ぎ見て、どこか含みをもたせた笑みを紅い唇に引いた。 「副かいちょォには怪我ねェの」 「いえ、私には……」  会長のおかげで、無傷で済んでしまった。  本来、怪我を負う方は俺だったはずなのに。  俺さえ庇ってなければ、あの程度の男、会長なら掠り傷のひとつもなく決着がついただろうに。 「……ありません」 「そお。ソレは残念」  背中で組んだ指をぎゅぅっと絡ませかたく握る。  残念、か。そりゃそうだ。  神宮グループの大事な跡取りに怪我させておいて自分は無傷って。  従兄である養護教諭に責められて当然だ。 「……残念? どういう意味だ。こいつは怪我をしても構わなかったと言いたいのか」 「、会長、」  しかし会長は気に障ったらしい。  こんなところでもまた庇われたくないので会長の左肩を掴んで止める。  それでも会長は歯牙にもかけず、養護教諭の返答を静かに待っていた。  

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