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校舎から生徒会専用寮までの道のりを、月夜に照らされながらゆっくり歩く2つの影。
そこに会話はない。
ぎこちない沈黙が支配し、夜はひっそりと静寂に包まれていた。
繋ぐ指先の頼りなさにただただ意識が向かう生徒会書記は、ちらりと、自分の目線よりも低いところにある頭頂部へと横目を流す。
(……めずらしい)
その先に見る、どこか心ここにあらずな、後輩の横顔。
きっと今の彼の頭を支配している事柄は、己の旧友である生徒会会長の怪我のこと。怪我に対する心配や罪悪感に苛まれている渦中。
珍しいと、思う。本来、他人にそう容易く思考を気取らせるタイプではないのだ、この後輩は。
特に、そう………落ち込む、という言葉と結びつくような彼の暗い表情を今まで見たことがあまりなかっただけに、書記は掛ける言葉を慎重に探す。
もし探し出せたとしても、この聲が、咽が、自分の思い通り正確に相手へ届けてくれるかどうかに至っては、欠片も自信がないけれど。
「……おれが、」
「、?」
「……代わり……、なれたら、のに」
『おれが奏の代わりに盾になれたら良かったのに』。
そう伝えようと絞り出した途切れ途切れの声はやはり掠れ、うまく音にはならない。
けれど見下ろした先の後輩は必ず、理解しようと努力してくれると知っている。彼なりに噛み砕き、意志の疎通をはかろうとしてくれることを、知っている。
「……それだとあなたの方が、怪我をしてしまうでしょう?」
ああ───やはり。伝わった。
静かな声。瞬きの度に、瞼を縁取る睫毛が長い影を作って。
何気ない仕草が帯びる洗練とした艶を裏切るように、小首を傾げてこちらを見上げる幼い表情。
その曖昧さが堪らなくかわいいんだと、書記は後輩の目を見詰めてぼんやりと思う。
(シンプルな『優しさ』とは違うんだ。このコは)
おそらく「会長が怪我をせずともあなたが怪我をしたらプラマイゼロでしょう馬鹿ですか???」くらいのことは考えていてもおかしくない。わりと辛辣だから。
でもその根底には、どちらにも怪我をして欲しくないという後輩自身の情が見え隠れしている。
根本的なところに備える温かさが、生きてきた過程の、環境の、価値観の違いを浮き彫りにさせる。
(慈悲深いと言えるほど、このコは他人に優しくない。)
(けれど冷酷無比と言うには、この子は非情から縁遠い。)
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