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「だいじょぶ。……おれ、頑丈、だから」
「お気持ちだけで十分です。ありがとうございます」
世辞でも、こちらを頼る素振りを見せようとはしないらしい。それは彼の男としての矜持であり、意地だと、理解してはいても。
繋ぐ指先とは反対の掌を強く握り込んだ生徒会書記は、胸中で地団駄を踏む。
(…────君に力はない)
それは権力という力。
それは暴力という力。
そして、それらを公使できる意志の力。
物理的に、あるいは社会的に他人の領域を侵し抑圧するチカラを、この後輩は持ちえない。
生徒会書記、いいや、学園に通う人間にとっては生まれた頃から当然のように存在する力を、一般家庭で育った彼はまだよく知らない。
(そんな君が、ときに危うく、ときにもどかしく思えてならない)
頼りにして欲しい、などと、言葉にしたところで上手く伝えられるだろうか。伝えたところで、この後輩は思い通り自分を頼ってくれるだろうか。
考えずともわかる。想像に容易い。
こんな、偽りだらけの砂上の楼閣で、そんな戯れ言、言えるわけもないのに。
繋ぐ掌に圧が入りかける。しかし瞬く間に力は緩められた。
『指先は咎。口先は罪』。
そうやって、己を律することで初めてようやく人と関われる生徒会書記は、思いのほか多くのものを鋭敏に感じ取る。
(特に君の一線は、顕著だ)
それはもう歯噛みするほどに。
(……生徒会がすき)
(生徒会のみんながすき)
(生徒会室という空間がすき)
(自分が居ても許される居場所が、だいじ)
だからこそ生徒会書記は生徒会書記として、生徒会に身を置き続ける。
例えば心底目障りな転入生が、今後も生徒会仲間と関わりを持ち続けようと。例えば今夜の強制参加のように、とばっちりにも等しい巻き込まれ方をしようと。
例えば誰が、何を、隠していようと。
(それ以外は────望まない。)
彼らを守り盾となるのは、この身だけで十分だ。
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