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学園から数十キロ離れた同時刻。
中継地点にあたる無人のガソリンスタンドにて。
そこは、死屍累々の山と化していた。
折り重なるように倒れる人、人、数十人。
完全に気を失っている人間もいれば、無慈悲にも失神を許されず呻き声を上げる人間もいる。
一様なのは、彼らの服装や頭髪のどこかに同じ色が入っていること。県境を根城とするカラーギャングの集だった。
「…────遅ェ」
夜の静寂を切り裂く冷たい声。
その声の主の方へと首を捻らせた金糸雀色の長髪を持つ男・ミサキは、やれやれ、とでも言いたげに肩を竦める。
「病院送りもダメ、警察沙汰もダメだっつって高みの見物決め込んだのはアカリちゃんでしょぉ」
深夜の静まり返った夜道に、ガコン、と派手な音が響いた。
目に痛い蛍光灯の光で存在を主張する自動販売機から離れ、こちらへ歩み寄る長身の男が一人。
限りなく黒に近い真紅の髪。
冴え渡るのは金の双眸。
大きな手が悠々と掴むのは、ペットボトルが二本。
隣県までの往復距離をアシとなり、野次馬感覚の男の代わりに情報収集に徹し、極めつけにほんの十数分前ばったり鉢合わせた煩いガキ共を全員畳めという命令に遵従した、そのすべての労力に対したかが炭酸水一本を駄賃にするつもりらしい。
なんという安請け負いをしてしまったのだろう。割に合わない。───暴君め。
しかし数時間走るうちに咥内は渇きを覚えており、ミサキは口先だけの礼を述べ喉を鳴らして飲み干した。
それから愛用の改造バイクに腰を据えると、アカリをちらりと一瞥する。
男は近くのコンクリート塀に腰掛けていた。片足を乗せ、もう片方の降ろした足がつまらなそうに揺れる。
高いところを好む習性は相変わらずのようだと、ミサキは小さく笑った。
一見だらしがないと思える姿勢も、決して粗野に見えないのはこの男が生まれ持つ品格のせいだろうか。その横顔に、夜の世界で見せる血気盛んな鬼は居ない。
(……機嫌良さそうだねぇ)
意外だと、胸裏でひっそりとごちる。
名目上はただの野次馬、しかし場合によっては今夜の《黎》と《白蛇》の喧嘩に途中参加して引っ掻き回すことも厭わなかっただろう男が、よくもまあ我慢できたことだ。
それとも何か、男をただの野次馬に留めるだけの収穫があった可能性も、否めないが。
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