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さらに経過すること数十分。
閑静な住宅街を抜け、小道を抜け、バイクはとある店の前で停止した。
アカリとミサキは揃って足を踏み入れる。
扉の開閉を知らせるベルの音が、カランと闇夜に響いた。
「アカリ、ミサキ。おかえり」
「お疲れッス」
そこはこじんまりとした喫茶店だった。
品の良いアンティーク家具が並ぶカウンターを占有するのは、二人の先客。
「おう」
「ただいまーノゾムくん、雫ちゃん」
「タケは?」
「期末が近いからね。受験生にもなってオール赤点はさすがにマズいって、今頃焦ってお勉強中」
「馬鹿だな」
「馬鹿だねぇ」
「静かでいいッスけどね」
ノゾム、雫と呼ばれた二人。
まるでファッション誌からそのまま抜け出したかのような(前者は読者モデルという職業柄、比喩でもなんでもないのだが)、長い手足に華やかなルックスを兼ね備えた美男子達は、片や腹の読めぬ微笑を、片や退屈を隠すことなく、脚の長いスツールに腰掛けて二人の来訪を待っていた。
代表でノゾムが、笑みを浮かべたまま首を傾げる。
「収穫は?」
「今回の小競り合いは《黎》に対する個人的な逆恨みが発端だと。原因は恋愛絡み」
「なぁんだ、くだらねー理由ッスね」
「そう思うのは雫ちゃんがくだらないレンアイしかしてこなかったからぁー」
「へー。じゃあ、ミサキさんはあるんですね。人に説けるほどの、大レンアイ」
「はいはい喧嘩やめなって。それより二人共、小腹空いてない?」
空腹の二人に気を利かせたノゾムがキッチンへと足を向ける。
そしてすれ違う刹那、他には気取らせない程度の仕草で、ミサキへとアイコンタクトが送られた。
「あぁ俺も手伝うよぉ」、と自然に後へ続き、扉はパタリと閉ざされる。
客席とは隔たれた狭いシステムキッチン。
知己である喫茶店のオーナーに遠慮などなく、冷蔵庫から引っ張り出された惣菜を手際よく調理するノゾムの指先の動きをぼんやりと見つめていたミサキに、ぽつりと、問いが投げかけられる。
喉から手が出るほど知りたいだろう、情報についての。
「ねえ、ミサキ」
「何? ノゾムくん」
「アレは、」
かち合ったそれは、まるで玩具箱を覗くような、きらきらと無邪気で、いっそ獰猛ささえも溶かし込んだ狩人の瞳。
「───《コウ》は。俺の可愛い"獲物 "は。見つかった?」
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