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 所変わって、カウンターに残された二人。  四人掛けのテーブルへ怠そうに腰掛けたアカリの様子を横目に見た雫もまた、彼に問いを投げ掛ける。 「……で? 結局、紘野さんと連絡は取れたんスか?」 「あァ、一応。28回かけてやっと出た」 「28回もかけ続けるアンタが怖いです」 「うるせえ」  雫のごもっともな感想をぞんざいに流したアカリは、ふと、28回目の会話の内容を思い出した。  コールが繋がったのは昼も過ぎた頃。  電話越しの声は相変わらず口数も抑揚も少なかったが、そのときの受け答えに、どこか違和感を覚えていた。 「ただ、どうにも引っ掛かってな」 「というと」 「『今夜、《黎》の喧嘩の野次馬に行くけどお前も暇なら混ざれば?』って言ったら、来るなって。即答」  『来るな』。  やけに、きっぱりとした口調だった。  そんなもん知るかとあの時は思いっきり無視をしたアカリだったが、よくよく考えれば疑問が残る。 「勝手にしろ、って言いそうですけどね。紘野さんの性格なら」 「だよなァ」 「何かあったんスか?」 「……どう思う? お前、どんなときだったら、俺に来るなって言いたくなる?」  しばらくの間、雫は熟考する。  純粋な力量だけではなく、洞察力に長け、常に客観視ができるこの幹部をアカリはいたく買っていた。  そして幾ばくして、雫の唇が薄く開かれる。 「そうですね………まずは、自分のナワバリを荒らされたくないとき」  指折り数える。 「単にアカリさんが鬱陶しいとき」 「喧嘩売ってんのか」 「あとは、」  指折り数える。 「独り占めしたい所有物(エモノ)が、そこに居るとき」  その指が三つ目を折ったとき、嵌められた黒い指輪がほの暗い光を放った。  まだ幼さを残す甘い顔立ちが、凶悪なまでの艶やかさを魅せる。 「誰だって、アンタにだけは死んでも見せたくねえ」 【《夢枕《ナイトメア》》】……  全国の中でも三本指に数えられる暴走族。喧嘩の喧嘩による喧嘩のための超実力派連合集団。知名度とは裏腹に、トップの顔や名前はほんの一握りの人間にしか知られていない。  五代目総長の(アカリ)、副総長兼参謀の(ノゾム)、他4名の幹部から成る。  チーム内の鉄の掟:『狙ったエモノの横取り厳禁』  弱肉強食思考を持つ猛禽類の集まり。 * * *

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