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* * *  外部の人間による学園生への干渉を良しとしない方針の学園にとって、訪問者の取り扱いは慎重だ。  アポイントメントがなければ例外なく門前払いだし、訪問者の質によっては接待のレベルや時間、"侵入を赦す程度"も変わる。  召集の夜から一夜置いた、月曜日の放課後。  俺と会長は生徒会顧問・藤戸氏からの気が抜ける内線により、学園生の生活区域からは離れた末端も末端、外部専用窓口と呼ばれる建造物・三階のこじんまりとした応接室の中にいた。 「………本当にスミマセンでした」  対面にある黒皮のソファーの上では、顔やら腕やら見えるところをパンパンに腫らした上に洒落た刈り上げからさらに刈り尽くして坊主頭に進化した、件の金属バットの男が座り深々と頭を下げている。  身体はぼろぼろな上にファッションも絵に書いたようなイキった若者といった風体で、レセプションスタッフからはそれはそれは奇異な目で見られていた。  対して、坊主頭がその坊主頭を下げる先には、足を組んで座る会長。その右腕には真新しい包帯が巻かれ、三角巾で吊られている。  そして俺はといえばその背後、ソファーの後ろに控えて待機。  俺が一昨日与えた攻撃よりも明らかに増えた怪我の量とこの頭。  どうやら《白蛇》の総長サンは有言実行タイプのようで、きっちり"落とし前"をつけてくれたらしい。  それにしても、坊主。オシャレ坊主でもなんでもなく、その場でバリカンでやられたような。しかも多分、問答無用で。  《白蛇》の上下関係は想像以上にえげつなかったようだ。所詮は他人ごとだが。 「俺が気にしてねぇっつってんだ。そう何度も頭を下げるな」 「けど……えっと……」 「あー……オイ、目ェ据わってんぞ」 「元からこんなです」  あんたは、あんた自身にされたことだからそうやって割り切れるんだろうけど。俺がこの男を許したら、自分のことも許してしまうようで、納得はしかねる。  それに、本当にスミマセンでしたと思っているかも疑わしい。どうせあの総長サンに行けと言われたから来たんだろう。渋々来ましたという態度をまるで隠せていない。  実際、今も応接室内に置かれた高価な絵画やら金目のものにこの男が気を取られていることくらい、あんただって気付いてんだろ。  見た目の痛々しさばかりが目立って、根本的なところはまるで変わっていない。  これで簡単に許したら調子のんぞそいつ。 「あの、俺、本当に申し訳ないと思っててー、」 「謝罪はもう結構。お引き取り下さい」  意固地だと思われようと、ここは頑として折れるわけにはいかない。別に聖人キャラを築いているわけでもあるまいし。  渋々立ち上がった坊主頭と擦れ違う瞬間、坊主頭の猛省してます的な暗い表情の裏に、やっと帰れるぜラッキー、とでも言いたげな喜色が浮かぶのを見つける。  ……まじでこいつ捻り潰してえ。 「リオ、お前な……」 「どうされましたか会長。あまりにも無駄な時間を消費したせいでお怪我に障りましたか?」 「……そんなに柔じゃねえよ」  和解する気ゼロの俺のこの態度を見てこれ以上何も言うまいと思ったのか、会長もソファーから立ち上がった。  その右側に寄り添い、いつでも介護、じゃなくて、支えられるように備える俺へと会長は一瞥くれただけで特に何も言わず、一足先に出口に向かう坊主頭のそのあとに続く。  これで終了かと思えばところがどっこい、坊主頭が開けた扉から廊下に出た直後、即座に引き返したい衝動に駆られた。  だってそこにはマリモヘッドが待ち構えていたんですもの。  

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