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「……なんだ、奏?」  王道はこれをどう感じ取ったのだろう。  「オレのことは名前で呼べよ!」という常套句で切り返されると思っていた俺の予想は外れ、王道の表情は分からない。  そんな王道の反応さえ気にならないのか、続けられた会長の言葉は、平坦。 「放課後は生徒が多い。場所は選べよ」  ……なんだろう、この違和感は。  会長の、王道への態度があまりにも『ごく普通の対応』過ぎる。  文面どおり受けとれば、部活生や居残る生徒の目がある中、部外者を連れ歩いて周りに不審に思われたり迷惑をかけたりしないように、と、ただただ、生徒会会長から一生徒へ向けられた、注意。  例えば他の一般生徒が同じ状況下にあったとしても、きっと同じ表情、同じ声のトーン、同じ言葉で指摘したんだろうと、想像がつく。  ───それはまさしく、佐久間ルイという一生徒が、生徒会会長の認識の中で『その他大勢』に組み込まれたかのような。 「わかった! じゃあ、行ってくる!」 「っ、ちょ、ルイ、速いって……!」  王道はその言葉に力強く頷き、ぱたぱたと全力疾走で階段を駆けおりていく。  腕を引かれる坊主頭の嬉しそうなこと。  ふたつの足音が次第に小さくなっていく。校舎から遠く離れたここでは、放課後の喧騒も遠い。  雲から顔を出した太陽が再び地上に惜しみ無く陽光を注ぐ。ようやく気が抜けたところで、ひっそりと息を吐いた。  ひとまずは。 「一件落着……ですか?」 「ああ。一段落だ」  片が付いた。  少なくとも俺の中は。  《黎》やチームの関係者とはもう関わるつもりもない。  パーカーも手洗い(クリーニングなんて誰がしてやるか)して今朝紘野に突き返してやったし、綺麗さっぱり後腐れなし。  王道が学園に厄介ごとを持ち込まない限り、基本的には学園の外の話だ。学園の副会長でしかない俺とはもう無縁。 (まあ、いろいろと疑問は残るけど……)  主に、すぐ隣にいる会長の思惑についてだが。  会長が王道のことを特別視していたのは確か……なはず。  そうじゃなきゃこの人がわざわざ立ち回って《白蛇》との喧嘩をセッティングする必要も、なかったわけだし。  そもそも食堂イベントで『気に入った』と、宣言しているわけだし。  でも………”一年”、か。  月例会議で呼んでいた”例の一年”は公私を分けた上での呼び方だ。今回のソレとは意味合いが違う。  つまり会長の中で、《黎》と《白蛇》問題の一段落を経て、王道に対する意識に何らかの変化があったことは確実。  それを俺に気取られても差し支えない程度の、変化が。  

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