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「────だから次からは、気をつけろよ!」
唐突に現れた、見慣れた晴れやかな笑み。溌剌とした声。
《白蛇》幹部は、安堵した。
安堵したと同時、浴びせられた言葉のすべてを自分に都合が良い意味へとすり替えた。
(ああ、そうか。あえて厳しい言葉を選んでくれたのか。優しいルイが、俺のために)
(やっぱりルイが好きだ。すげえ好きだ。だからまたルイのために、俺がやれることをやろう)
(ルイの、為に)
そうしなければ、何がなんでも信じていなければ、自分のこれまでがすべて否定されてしまうような気がしたから。
*
(くだらない……くだらない、、)
かつての仲間を再び窓口に送り届けた後、一人残された佐久間ルイは、苛立ちを宥めるように深く息を吸う。
夕方の日差しの下に居続けた身体はじっとりと汗ばんで、鬘は重いし地肌は痛い。
気分が悪かった。
自分の預り知らぬところで起きたことも、相変わらず自分に心酔し続ける昔の仲間のことも、こころのどこかで気づきながらも見ないフリをしてきたことを、思ってもみなかった相手から指摘され、そして叱られた ことも。
(……叔父さんが言ってた通りなのかもな)
生徒会二人に向かって”頼みはなんでも聞く”と持ちかけたのは、佐久間ルイにしてみれば一種の博打だった。
一体どんな要求をされるのか、彼らが自分に何を求めているのか、手っ取り早く探るつもりで。
しかし真意を読み取ろうと答えを待った先には、肩透かしの予想外な願い。
そして確信する。
彼らが自分を───「佐久間ルイ自身」を、求めているのではないのだと。
あの二人、いいや、あの二人を含めた生徒会の人間たちは、自分に恋愛感情を持って近付いてきたわけではないのだと。
(おかしな生徒会だ……)
誰もが何かを隠している。誰もが何らかの目的がある。個々により差はあれど誰しもが裏の顔を持つ。
それが何なのかはわからない。
けれど直感的に、これまで自分に近づいてきた人間たちとは決定的に違うと感じる。自分に向けられる感情 の質に敏感な佐久間ルイだからこそ、ほんのわずかな違和感を嗅ぎ取れる。
あくまで感じ取れるだけで、理解までにはいかない。未知は未知のままだ。
けれど気にする余裕はない。気にしてはいけない。ここに来た目的を、忘れたつもりはない。
(それより……そんな、ことより早く、探さないと)
早くコトを片付けて、早々に去らなければ。さもなくば引きづられる。思考までもが、ここでの生活に棲みやすさを求めてしまう。
(早く、アイツを見つけ出して)
(アイツのダイジなモノを、壊してやるんだ)
『───ねえ、ルイ。君が良ければでいいんだけど。俺の学園に、来てみる?』
『面白い生徒がたくさんいるんだ。生徒会のコ達を始め、皆一筋縄じゃいかない。きっといい社会勉強になる』
『君がもしも現状を変えたいと思うなら、俺は叔父として、精一杯の協力をしよう』
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