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驚愕と衝撃のあまり鳩豆フェイスを隠せなくなった俺を横目に見た会長が、それまで機械的だった顔を消してフッと耐えかねたように相好を崩した。
あんた今、俺の顔見て笑ったな……??
『……なことより、──────』
「ああ? そもそも、お前がいつも肝心なところではぐらかしたのが悪いんだろ。おかげでこっちは無駄に慎重になっちまったし、この1ヶ月のあいだ全校生徒に誤解されたままだっつの。割に合わねえ」
『────』
「はっ、過保護もほどほどにしねえと、その大事な大事な幼なじみにも煙たがられるぞ。
…………なァ、リオ?」
『この1ヶ月で会長が全校生徒に与えた誤解』についての考察で根こそぎ思考が持っていかれたせいで、俺 に直接話を振られたのだとわかるまで、三秒はかかった。
頼むから、情報処理の、時間が欲しい。
パワーワードのオンパレードで俺のキャパシティーさんがそろそろ限界を訴えている。
『っ!! ───!?』
「耳元でうるせえな……ばーか、誰が替わってやるか。せいぜい悔しがってろ。切るぞ」
俺様会長らしい意地悪そうな顔つきで口角を上げた会長が、電話先でまだ何か言ってるのも構わず問答無用で通話終了ボタンをタップした。さらに電源まで落とす徹底ぶり。
『当初の想定より害はない』。
『あの一年が敵意を向けている相手』。
『この1ヶ月の誤解』。
『大事な幼なじみ』。
そして、『プロトタイプのオウドウ主人公』。
果たして会長はどのタイミングで、どういった経路で、何をどこまで知っているんだろう。
それらをすべてひた隠して、全校生徒の誤解を招くような振る舞いまでして、この1ヶ月間裏で行動していた会長の真意は、一体……?
俺の無言の追及すら見てみぬふりで階段を一段、二段と降りていく会長の左肩を、咄嗟に掴んだ。
ここまで尻尾をチラつかせておいて、何の説明もしないなんてナシだろう。
くるりと振り返った会長が無言で俺を見上げる。
段差のおかげで身長は逆転しているのに、混乱が尾を引いているせいで問いただす言葉が浮かんでこない。
俺の顔をじっと見上げて意地の悪そうな笑みを浮かべた会長の背後、長く伸びる影に、悪魔の尻尾が揺れた気がした。
片腕の悪魔が俺の頬を手の甲でするりと撫でる。
「……お前にしては随分と混乱しているようだな。こんな、無防備な顔して」
「か……今、そんなことは、」
「ユウトだよ。電話の相手」
トドメとばかりに落とされた核爆弾発言によって、ついには頭が真っ白になった。
自分がよく知る相手の名前を反芻し、目を丸くする。
「………ユウト、さん?」
ぽかりとくちを開けたままオウム返してしまったのがよほど可笑しく見えたのか、会長改め悪魔様は珍しくも年齢を思わせる先輩ヅラで笑みを刻む。
「副総長の臨時帰還だ。チームに戻ってくるなら歓迎するぞ、リオ」
「あ、それは断固としてお断りします」
「絶対言うと思った」
十年以上前からずっと変わらず記憶に在り続ける、屈託のない笑顔と大きくあたたかいてのひらをつい昨日のように思い出す。
混乱続きで強ばっていた肩から、自然と力が抜けていった。
……日本 に帰ってきてたのか、あの人。
* * *
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