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『なんでもっと早く連絡してこないかなあ……!』
コール音が途切れた直後、声量なんぞお構いなしの声が鼓膜をびりびり刺激する。
思わず携帯を持つ手を遠ざければ「まだ切るなよ」とまるで俺の様子を見ているかのようなばっちりのタイミングで制止の声がかかった。
相変わらず元気そうだと、安心通り越して呆れすら覚える。
「……それならユウトさんの方から電話くれたらよかったんじゃないの」
『リオからオレへの愛を試していたんです』
「そんなのない」
『リオってばもー照れ屋さーん』
生徒会室にて。
俺専用のプライベートルームにて。
テキストが広げられたデスクの前にて。
期末考査を目前に控え、クラスの自習(正確には自習ではないのだが、藤戸氏の授業を受けるくらいなら自習の時間にあてた方がよっぽど有意義だ)を利用してこちらで勉強していた合間にふと思い出して電話をかけてみたはいいものの。
「帰国してたなんて聞いてないけど」
『だって言ってねえもん』
「いつ帰ってきたんだよ」
『何? 気になる? オレのこと気になる?』
「じゃあ別にいいや」
『待て待て待て』
電話先の相手は、ユウトさんという。
今年で二十一歳を迎える四つ上の成人男性で、俺のもう一人の幼なじみ。
知り合って早11年余り。
昔からホームステイや短期留学などの国際交流に積極的なタイプではあったが、三年前ニューヨークに渡米して以来、正月以外はほとんど家に帰らず様々な県や国を渡り歩く自由奔放な男だ。
そして、俺の兄を名乗る人。でもある。
『今年の5月頃かな。奏から電話があってね。事情を聞いてみたら、リオも面倒ごとにがっつり巻き込まれてるみたいだし? これは馳せ参じねばお兄ちゃんの名が廃ると思ってレッツ帰国』
「自称だけどな」
『アーアーキコエナーイ。そもそも奏も奏だよ、リオだけは野蛮な暴走族の軋轢なんかに関わらせるなって交換条件でいろいろ教えてあげたのに、まんまとリオをごたごたに巻き込んで』
「だから電話で過保護って言われるんじゃないの」
『お兄ちゃんだもん、過保護にもなるよ』
「自称だからな?」
先日の《白蛇》とのいざこざに関して、会長はユウトさんの協力を仰いでいたらしい。
例えば《白蛇》の分析や総長サンとの交渉の立ち会い。
そして、オタク趣味を持ち合わせない会長が一切知り得ない情報の提供───つまりは。
『やっぱりオレの読みどおり、今年は来ると思ってたんだよなあ……オウドウ転校生』
「……」
先に述べておくと、ユウトさんは「腐男子」ではない。俺と同様、腐男子の思考を理解している一般人だ。
ただ、俺と違うのはバイ寄りのノーマル(すでにノーマルなのか微妙なとこ。ちなみにタチらしい)だということ。
俺が中学生の頃、ふらりと帰国したユウトさんに「国境越えたら異性愛も越えちゃったー」と宣われ風呂に連れ込まれかけた記憶は苦い思い出だ。日頃からスキンシップが多いひとだから油断していた。
あっちでも派手に遊んでいるらしい。
ユウトさんのユウトさんも元気そうで何より。
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