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『あー……逢いたいんですけど。寂しいんですけど』
「あっそ」
『りおちゃんがつめたい』
放浪癖のくせに寂しがり屋、という面倒な性質を併せ持つ年上の幼なじみをあしらっている間に、気付けば授業終了まで残すは十数分。
ぐぐっと腕を上に伸ばせば凝り固まった骨がぱきぱきと身の内で音を奏でた。
広げたテキストを揃えタブレットと共にキャリングケースへとしまう。
4限目終了まであと20分。
昼食は食堂に行く予定だ。まだ一般生徒は授業中だから、早めに行けば誰にも気付かれずいい席を確保できる。
「じゃ、切るよ」
『……まだ10分も喋ってないんだけどなー』
「充分だろ」
『ちぇー』
「拗ねるな二十一歳」
『まあいいけどね。リオの声聴けたし。奏から貰ったリオの副会長ボイスもあるし』
「……そんなことのために会長にわざわざ会話録らせたの?」
『……、…えへ!』
イラッときたので通話を切った。
まあ、王道襲来から先日の召集に至るまでのおおよその背景は把握できたし、十分な収穫を得られただけ良しとしよう。
要は「王道」に関することで会長は情報通のユウトさんに協力を求め、「王道」を知りながらもこの1ヶ月間それを秘めて立ち回っていたことが分かった。
それでもまだ、食堂イベントで王道に何を言われたのかとか、わざわざキスまでした理由とか、俺たちに事情を黙っていたこととか、そもそもどこまでが掌の上だったのかとか、肝心要の会長自身の思惑は不透明なままだが。
ユウトさんもわりとのらくら躱すタイプだから、嘘は吐かないにしても敢えて黙してる部分は少なからずあるんだろうとは思う。
会長の真意については、本人に聞ければ一番手っ取り早いけど………逆に俺のことも問いただされそうで、未だ決心は着かない。
チームの問題はもう終わったことだ。別に無理して知ろうとしなくたっていい。
探られたくなければ、探らない。それで間違っていない……はず。
まずは目の前の期末考査に集中しよう。
意識を切り替え、プライベートルームを出る。扉が閉まると同時、携帯の振動がメールの受信を知らせた。
『件名:5限は移動
次の授業は多目的教室に変更になった。すでに知っているかもしれんが、一応伝えておく。』
送り主は誰かって?
へっへっ。Aですよ。
堅物ンデレな学級委員長くんですよ。
俺が仕事等で教室にいない間に突然の連絡事項や移動教室の知らせがあると、Aはこうやってメールで教えてくれる。
もう知っているかも……、と迷いながらも、でももし知らなかったら……、というAの親切心が滲む文面に自然と頬は緩む。
生徒会役員に対する悪感情から、ゆっくり、クラスメートとして接しようと努力してくれてる? のかな?
あの怠慢が俺を気遣って連絡くれるとは思えないし、Aの配慮は純粋に助かる。
やっぱあいつ好きだわ。
ベーコンレタス的な意味ではなく、仲良くなりたいって意味で、な。
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