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 仕事の打ち合わせや確認もあって内線やメールなどで連絡を取り合うことは多いから正確には久々ではないのだけれど、それでもやはり、こんなドッキリみたいな展開で直接会うには心の準備が足りない。  会長の様子は気になるけど、今は後だ。  どうせ昼は会長と一緒に摂る約束(を半ば無理やり取り付けているん)だし、腕の具合はそこで尋ねよう。  「……気を付けます」と小さく返事をすると、ネクタイから指が離れた。さりげなく目を逸らし、退出を告げる。 「授業中にも関わらず勝手にお邪魔してすみません。では、失礼し───…」  いや、正確には、告げようとしたんだけども。  志紀本先輩の前に置かれたキャンバスが視界に入って以後、縫い付けられたかのようにピタリと身体ごと硬直する。 「………」 「………」  一度、教室の前方にあるホワイトボードを確認する。  持田先生が書いたとおぼしき「動物」という二文字が神経質そうに並んでいた。  なんの捻りもないお題だ。うん。  間違っても、バケモノとかゲテモノとかそんなお題ではな、 「……言いたいことがあるなら早く言え」 「へっ」  ぎくっと肩がぎこちなく跳ねた。  どこか居心地悪そうに座り直した先輩とキャンバスを見比べ、錯覚かと思い至って目をこすり、しかし再び現れた現実に二の句も出ない。  ごく、とどこかで生唾を飲む音が聞こえた気がする。  一度浅く息を吸った。  落ち着いて、慎重に。言葉を間違えないように。大丈夫、俺はやればできるコ。 「……あの、先輩」 「なんだ」 「ちなみにこれ、何の動物……ですか?」 「猫」  猫。ねこ。  ねこって五本足だっけ……? 「足、多くありませんか?」 「尻尾が紛れている」 「耳、ほとんどありませんが」 「そういう品種だったろう?」 「まさかとは思いますけど……いやまさかですけど、このモデル………ノアのつもりでは、ありませんよね」 「ノア、というのか。あの猫」 「()」  あ……ありのまま、今見たことを話すぞ。  志紀本先輩の。天下の風紀委員長様の。  眉目秀麗、頭脳明晰、博学多才、二物三物どころではない才能を天から授けられた、この先輩の。  画力が壊滅的だった件。 「…………妖怪?」 「……出入口閉めろ。こいつをここから逃がすなよ」  それほど大きな声ではなかったというのに一斉に動き出した扉近くの生徒たちの摩訶不思議な団結力によって出入口が完全封鎖。  これもしかしなくても俺詰んだ???  

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