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短夜の夢 1
一学期の二大イベントといえば大多数の生徒が5月の【新入生歓迎祭】と、7月の【七夕祭り】を挙げる。
これらの大々的な行事の前後は学園内がいつも以上に活発的で、リア充爆誕率もいつも異常に活性化するのが特徴だ。
「もしよかったら、僕と、七夕祭りに行きませんか…?」
これで通算何回目だろうか。
七夕当日、人気のない廊下、赤ら顔で俺を見上げる小柄な生徒F。
しかし忘れてはいけない。相手は男だ。
間違ってもときめくシチュエーションではない。
「お誘い自体は嬉しいのですが……申し訳ありません」
そんな内心は微塵も感じさせないよう、心の底から申し訳ないという顔で目を伏せる。
途端、Fは泣き出しそうな顔になった。
だが男だ。
Fの遠く後ろの方で見守っていたFの友人たちも、同じ顔になったり、安心げな顔をしたり。
だが、皆男だ。相手が女子生徒だったら紛れもない青春の一ページだった。
せっかく勇気を出して誘ってもらったところ悪いが、立場上気軽に肯くわけにもいかない。今回のような学園行事で特定の生徒を特別扱いすれば、後々面倒なことになるのは必須なので。
しかし俺はまだ軽い方。
来年で卒業だから最後の思い出づくりとばかりに、会長を始めとする三年生、中でも当日誕生日を迎える風紀の二人はかつてない告白ラッシュを受けているらしい。
『お断りする度、大変申し訳なく思います』、と俺に零した園陵先輩の優しさに俺の心は射止められた。
先輩に気を遣われただけでもありがたく思えよ告白に散った野郎共。
生徒Fは健気にも笑って退いてくれた。
少しの罪悪感を胸に、HR開始前の騒がしい教室へ帰還する。
「おかえり支倉さん。どうでしたか」
「さよなら栗見さん。あなたの期待には沿えませんよ」
俺が呼び出されたと聞いておかしな期待を抱きながら教室で待機していた某腐男子はもちろん置いておくとしよう。
現在7月7日当日・午前中。
5日間の期末考査を終え、昨日今日で一気に全科目のテスト結果が返却された。本日は午前中のみの授業で、夜の19時から祭りが始まり、そして明日からは四連休。
辛い7日間を乗り越え、ようやく迎えるご褒美を前に生徒はすっかり浮き足立っている。
生徒の話題や関心の多くは、誰と祭りに行くかとか、何を着るかとか、そういう話。
まあ俺もリウも、表情に出しはしないが、イベント前の熱気に浮かれていることは否めない。
何せ屋台。祭囃子。浴衣に花火。
久々のお祭り行事、高揚するなという方が無茶だ。
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