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 時刻は三時過ぎ。  現在地は家庭科室の和室。  何故俺がリウ・ツバキ先輩と共にこんなところにいるかというと。 「まあまあまあ、東雲(しののめ)様。栗見様も驚いて固まってしまわれましたし、お戯れはその辺に」 「ちげェよ、固まってんじゃなくてオレとこいつのこの体勢をしかと網膜に焼き付けてんだ」 「いつからあなたは腐男子(かれ)らに餌を無償で提供するような奴隷に成り下がったんですか?」 「お前、腐男子(こいつ)らの情報網ナメてんな? 子飼いにしたら重宝すンぜ」 「分け前もないのに協力するとでも?」 「本人を前にして取引するのやめない???」 「それよりも! 園陵先輩、先ほどいただいたメールの内容ですけども!」  完全に話に置いていかれた園陵先輩が穏やかな顔でそっと離れようとしてしまわれたので、慌てて顎にかかる指を払いのけ軌道修正する。  俺としたことが、園陵先輩を蚊帳の外にしてしまうなんて。 「あ……はい。僭越ながら、支倉様の浴衣を選ばせていただきまして」  だそうです。  お祭りでは絶対人が多くて園陵先輩には会えないだろうと思っていたから、メールが来たときの俺の歓喜がわかるだろうか。  園陵先輩が、俺の、浴衣を、選んで下さった。  その事実だけでこんなにも世界は美しい。こここここころの準備をさせて下さい。幸せすぎて動悸が。 「はああ……幸せすぎて動悸が……!」 「「「「!」」」」  四人揃ってビクリと肩を震わせる。  い、今の声は俺じゃないぞ。さすがの俺も声にまでは出さないぞ。感情とシンクロしすぎて心を読まれたのかと思ったが。  座敷の隅、俺たち四人をうっとりと見つめる小柄な生徒は家庭科部の部長。声の持ち主だ。  俺たち、というか主に"ネコランク"が高い生徒たち用の更衣室としてこの場所を提供した張本人であり、さっきまで着付けの手伝いとして忙しく働いていた。と思ったらコレだ。 「《光の君》と《織姫君》と《緋彩の君》と《白薔薇の君》のフォーショットをこんなに間近で拝見できるなんて……嗚呼、着飾りたい……」 「ふふ、元気ですねえ」 「リオ、リウ。極力目ェ合わせんな」  俺とリウの頭を片方ずつ捕まえたツバキ先輩にぐっと押し下げられて強制的に見なかったことにされる。  曰く、家庭科部部長(3-S)は可愛らしい見目・家事全般得意・人気者に媚びない性格で男子生徒に人気が高いのだが、唯一残念なのは、可愛いまたは綺麗な同性を見たら着飾りたい欲求に駆られるところなのだそう。  彼を除いても、なかなか揃うことのないメンツなので視線がだいぶ痛いことに代わりはないが。  

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