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絡まれる前にさっさと着替えてこい、とツバキ先輩に促され、まずは部屋に備え付けられたシャワールームで身を清めた。水気をタオルでしっかり取り、替えの下着を穿いて、髪をきちんと乾かして。
試着室の中、黒檀の大衣桁に掛けられた浴衣を見る。
園陵先輩が選んでくれた一枚だ……けど。
「………派手過ぎねえかなあ」
園陵先輩の審美眼を疑うわけじゃないけども。俺にこの色似合うか?
ひとまず手に取ってみる。明らかに安物とは手触りや織込みが違うソレ。
襦袢を地肌に羽織り、浴衣に袖を通す。
肌の上を滑るような着心地の良さに脳内で0の計算が始まった。汚したら買取かな……気をつけよ。
身ごろを整え、試着室から出る。
和室に戻ると、同じく浴衣に着替えたリウはツバキ先輩と談笑中。入学したての頃に世話になって以来、リウの懐きようは凄まじい。
そんな二人も無言でこちらを見る。何か………何か言えってんだ。
「園陵先輩……あの、私には少し派手では」
「お似合いでしてよ! さすが《光の君》、素敵!!」
「ひッ」
「濃紅の布地に藤色の帯……ああ、《光の君》はお髪もお肌も色素が淡く柔らかいので、色鮮やかな浴衣が映えるとわたくしも思っていました……」
「は、はあ……どうも……」
「色鮮やかなキスマークも白い肌には映えますしねー」
「絵柄の花は……牡丹ですね。別名"百花の王"、まさにあなたに相応しい花です」
「よっ! さすが抱きたいランキング一位! 高嶺の花! 女王様!」
「散りばめられた金魚や露草や金箔も浮いてしまいかねないのに、お顔立ちが華やかだからこそ相互で引き立ち見事に着こなせるのでしょう……」
「それを脱がせるのがまた醍醐味」
「し……しかし男物にしては華美では」
「何を言いますか!! 自信を! お持ちに!! なって!!!」
「そして! 目指せ! 着エロ!!」
「そ、園陵先輩ぃ……」
「熱量はわかったから、落ち着け」
園陵先輩に尋ねたはずが家庭科部部長から何倍もの勢いで熱弁されたので、駆け足で園陵先輩の傍に逃げ込む。
いちいち挟まれる腐男子の合いの手がうぜえ。
そんな園陵先輩もすでに浴衣姿だ。
白地に咲く碧い芍薬と、その傍を舞う蝶。
長い髪は低いところでひとつに結われ、例えるならまさに巫女さんみたい。
女物の柄・女顔をものともせず男物として完璧に着こなす浴衣美人がここに。超好き!
「園陵先輩、世界一素敵です」
「ふふ、言葉が御上手ですね」
「チトセの前では猫かぶりやがって。どんだけ女顔に飢えてンだよ」
「そう仰る東雲様はご家族が女性ばかりとあって、昔はよく女性用のお召し物を着せられていたそうで」
「「……へえ」」
「……チトセ。オレの古傷を抉るな。そして反応するなそこの二匹」
「お写真でしか存じ上げませんが、大変可憐でしたよ?」
園陵先輩最強ですわ。
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