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せっかくの新情報なので、ツバキ先輩の上から下までをまじまじと見てみた。濃紺色の浴衣に山吹色の帯で、絵柄も花があしらわれていることは同じだが他と比べてもさほど派手じゃない。
しかしいつもサラリとした赤髪が今回は敢えて乱れ髪のようなセットをされているし、そもそも顔面が卑猥なので黒系の浴衣を着るとその道のプロ感が増す。
可憐な幼少期? これっぽっちもイメージ沸かねえスわ。
「今、失礼なコト考えてたろ」
「あなたの可憐だった時期が毛ほども想像できないなと」
「可憐なお顔が今や妖艶……闇堕ち最高」
「……なあリオ、可憐なツラならここにもあると思わねぇ?」
「ええ。とーっても可愛らしいですねえ、リウチャン」
「……。やめてくれません?」
ふす、と頬を膨らませたリウが着るのは四人の中でも一番派手な、浅葱とバニラ色の市松模様の浴衣。白百合と青い小花が随所に咲き、帯は濃いめのピンク、しかも背中には大きなリボン。
我が幼なじみながら、完全にオンナノコと化している。
《白薔薇》様のキャライメージを崩さないために日頃は小物や色など可愛らしいものをセレクトすることが多いリウだが、根は自分の童顔を好んでいないし学園の生徒の目が触れない場所では私服もだいぶ背伸びしていることは知っている。
自分の素を知らない人間に「かわいい」と褒められると笑って愛想を返すし、自分で自分のことを「かわいい顔」だと冗談めかして言うこともあるが、純度100パーセントのからかいだと別だ。
さっきから一言一言の主張がやたら激しいので、調子に乗り始めたらこうやっておとなしくさせるのが非常に効果的である。
「《光の君》が牡丹……《織姫君》が芍薬……《緋彩の君》が蓮……そして《白薔薇》様が百合……」
「支倉様。少々失礼致します」
俺の後ろに回った先輩が俺の脇の下へ手を差し込み(ドキっとした)、腰帯が締め直された。
姿見で確認した結び目。崩れにくく手直しも簡単、見た目も綺麗な結び方なのだそう。
さらに髪も少しいじられた。片側の髪が耳にかかり、ヘアピンで纏められる。簪 のようにユラユラと揺れる飾り付きだ。普段使っている革の腕時計の代わりにとブレスレットタイプの腕時計を渡され、さらに爪の簡単な手入れまで。
先輩も実は声を大にして主張しないだけでひとのこと着飾るの好きなんだろうか。
もう……先輩の好きにして下さい……。
「終了です。勝手に手を加えて申し訳ありません」
「いえ、ありがとうございます……それとですね……」
部屋はまだ慌ただしいが、せっかくの二人の時間だ。
言うなら今がチャンス。
「……お誕生日、おめでとうございます」
ふわりと微笑む園陵先輩がいと美しくて今日も飯がうまい。
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