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雑談を交えながらもそれとなく会長から距離を取り、ノアを猫用のミニチュアソファへと降ろす。
そんな俺を見上げる、透き通ったふたつのアイスブルー。
” にゃあぉ、 ”
「………」
それにしても、今夜のノアはよく鳴く……気がする。なんとなく、立食パーティのときの様子を彷彿とさせるような。
ちらりと人間用のソファの方を見やる。
未だそこに座しているのは白地に格子柄の浴衣、茶髪をハーフアップに纏めたマツリ。
残念ながら役員の中で参考になりそうな意見を聞けるのはアイツくらいだ。
相手もタイミング良くこちらを見ていたようで、すぐに目が合った………ものの、するりと逸らされる。
あれ、間が悪かっただろうか。
「……のあ……いいこ」
” にに、 ”
いつの間にか近くにいたタツキがノアの傍へとしゃがみ込み、大きな手でノアの頭を優しく撫でる。
喉をごろごろ鳴らし、大人しくソファの上で丸くなるノア。くぁあ、と大きく欠伸をし、目はゆっくりと閉じられた。
お休みの時間のよう。どうやら、杞憂だったらしい。
兎にも角にも今日は早めに帰ろうとひっそり決めて、ノアの餌の補充を済ませて、役員、そして警備員室で作業を行う守衛さんと共々、談話室を後にした。
七夕祭りが始まるまで、あと僅か。
* * *
” ………みゃう ? ”
人の気配が完全に消えた途端、シンと静まり返る談話室。
暖かい光を発するシャンデリアの灯が、飴色の艶を湛える家具を柔らかく照らす。
その場に存在する音は、レトロな談話室の内装に適した大きな柱時計の振り子が、ゆらりゆらりと秒針を刻む音だけ。
” にーぃ ? ”
後に残るのは痛いほどの沈黙。
首を捻って探しても、ヒゲをピンと張って探っても、その広い空間に存在しているのは、たった独りぽっちの子猫のみ。
身を起こした子猫があげたちいさくも寂しげな鳴き声は、誰の耳にも届くことなく談話室の影に虚しく消える。
* * *
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