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からん、ころん。
黒塗り仕上げの下駄が軽快に響く。
光沢を帯びる表面に散りばめられた白い花模様。紫の鼻緒の中心には天然石の緋色のビーズ。浴衣同様、下駄も園陵先輩が選んで下さいまして。履き慣れない俺に合うようにとひとつひとつ手にとって選んで下さったそうで。天使かな?
信玄袋には携帯とキーケース、それとがまくちの財布を入れて。扇子を帯の隙間に差し込んでみたりして。
ただの浮かれた高校生のできあがり。
学園のグラウンドや中庭など、外という外を広々と使って展開される七夕祭り。
それを6つのエリアへと区分けした中のひとつ、メイン会場となるグラウンドが、最初の一時間の持ち場だ。
俺と。そして、何人かの協力者の。
「引き受けて下さってありがとうございます。見回りといっても、気軽に考えて貰っていいので。本日は宜しくお願いします」
「……ああ、任せてくれ」
「オラ頑張ります!!」
目の前にはAと篠崎くん、そして彼らの連れ。人員不足の件で俺が助っ人として声をかけたうちの二人が彼らである。
”園内アルバイト”として募集する案もあったが、肩代わりと言っても一応仕事なので、ミーハーばかりが集っても困るのだ。
他の役員も同じく人を集め、特に顔の広い会長や交渉上手なマツリのおかげで人数不足どころか人数を軽くオーバーした。まあ、多いに越したことはない。
ちなみに篠崎くんは同類らしき友人3人と、そしてAはなんと生徒Cと一緒。DとEは恋人(♂)と祭りを回るらしい。
彼らのその後については地味に気になってはいたんだが、この様子ならうまく誤解も解けたんだろう。A、やればできる子。
「こちらが風紀代理の証明となりますので、今夜はこれを身に付けて行動して下さい」
細いチェーンの先に三日月を模したペンダントトップがついたシルバーネックレスを協力者全員に手渡す。
これがあれば喧嘩の仲裁や悪徳商売の厳重注意も営業停止も可能。原則として、介入よりも守衛さんへの連絡が第一優先になるが。実は生徒会代理の証明となる品もあるけど、ひとまずここでは割愛する。
俺を含め、ここにいるメンバーの巡回ルートはスタートが祭りのメイン会場となるグラウンド。グラウンドを1区として、ほかにも5区のエリアがある。
自分の持ち場をだいたい30分かけて回り、時間が来たらまた次のエリアへ。移動の合図は守衛さんが連絡してくれる。
「あ、あれ? あれ???」
「……ふ、私がやりましょうか。じっとしていて下さいね」
「ほぁっっっっ!!?」
スライド式の留め具に四苦八苦してる篠崎くんの背中に回って代わりに留めてやる。ぴしゃんと姿勢を正す動作がなんだか可愛いと思った。
奇声についてはノーコメント。
「…………コホン」
……ああ、うん、わかってるから。
そんな目で見るな、頼。
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