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 見回り業務をお願いしても嫌な顔をしないで引き受けてくれそうな協力者、と聞いて俺が最初に思い浮かべたのが頼だった。  電話で事情を説明して、ふたつ返事で了承してくれたことに安堵したのも束の間、引く手数多な頼はどうやらすべての誘いを断ってまで頼みに応じてくれたらしく、有り難いやら申し訳ないやらで複雑だ。  本人は「元々断る予定だったから気にしなくていい」と言うが、そろそろ背後が心配である。 「あなたの親衛隊にいつ刺されるか気が気じゃありませんよ……」 「ご心配なさらず。お守りしますから」 「……」 「それに今日は、その恰好の貴方様をこんな人混みの中一人で歩かせる方が気が気じゃないです。頼まれなくともご協力しますよ」  そう言って、頼の目線が俺の顔から、濃紅の浴衣を眺めて、さらに足先へと降りていく。居心地悪く身動ぎして居たたまれなさを紛らわせながら、一応確認のために風紀代理の仕事を念押し。 「……メインは祭りの巡視ですからね?」 「建前は、ですね。俺の本日の目的は貴方様の護衛です」 「護衛……」 「それに、今夜は"コレ"のおかげで堂々とリオ様に話しかけることができますしね。まあ、あなたが迷惑ではなければ、ですが」 「……頼んだ身で、迷惑だなんて思うはずないでしょう?」 「それなら良かった。役得です」  そう言って頼は、自分の首元で揺れるネックレスのチェーンに長い人差し指を引っ掛けて、悪戯っこのように笑う。  一般生徒なら誰もが一度は欲しがる風紀代理の証を俺なんぞと堂々と話すための口実にする生徒なんてお前くらいだよ。そもそも、護衛が必要なほど俺がか弱く見えるのか、こいつの目から見たら。  なんてことを、屋台のルートから外れた暗がりで話していたら…───ドン、と。重く深く、腹底へと響くような太鼓の音がひとつ。  グラウンドの中心に高く聳える祭り櫓から奏でられる、祭囃子。張り合うような放送のアナウンスとともに、祭りがいっそう賑わいをみせる。  一瞬そちらに気を取られたものの、頼のどこか硬い、ちょっと緊張した声に意識を呼び戻されて。 「……その。改めて確認というか……返事をいただいても、いいですか」 「? はい」 「………良かったら、俺と、七夕祭りに行きませんか」  俺を真っ直ぐ見詰める真剣な眼差し。  少し、照れた表情。  図らずも俺を祭りに誘った生徒Fと似たようなセリフに、言葉が一拍詰まる。  さっきまで堂々とお守りするとか護衛だとか、同行すること前提で話を進めていたくせに何を改まって、と疑問符を浮かべつつ、こくりと頷く。見回り業務を依頼したのは俺からだから断るはずもないのに。 「風紀代理として、でいいのなら」 「充分です」  それを聞いて安心したように笑う頼にさらに疑問を抱きながらも、屋台連なる通りの方へと足を伸ばした。  

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