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 そもそも何故『役職持ち』自らが屋台を取り仕切っているのだろう。アナウンスも写真部も全然人足りてないのに。もっと他の仕事あったでしょうに。  ド派手なピンク頭の前髪をダッカールで留め、派手な柄の作務衣にたすき掛けという出で立ちで俺たちを出迎えた伊勢さんはというと、俺と頼を交互に見比べてそれはもう驚いていた。日頃の接点がほぼ無い以上、「なんで?」と思われても仕方はない。 「その首飾り、「風紀代理」の……で、すよね? 風紀が今回お休みってのは聞いたけど……」 「ええ、ですので今夜は生徒会が風紀の代理です。彼……雪景色くんとは、偶然持ち場が重なったので、一人で歩くより安全かと思って」 「俺は、風紀の友人から今夜のことを聞いて。何か役に立てればと。……ね」  たいていの噂の発信源である広報委員兼写真部兼放送部兼新聞部、その長を務める伊勢さんから誤解されでもしたらいつかスキャンダル書かれたって不思議じゃないので、ここの誤魔化しは慎重にいかねば。  一応、今日の俺たちは「互いに都合が良かったから同行しているだけ」の「顔見知り程度の仲」という設定なので、程良い距離感を心掛ける。  だが……「雪景色くん」、って。「……ね」って。  なんだろこの、こそばゆい感じ。どうにも違和感を拭えず、ついつい二人で黙り込んでしまう。 「へぇぇ~~。まあ副会長さんと雪景色くんなら、周りに騒がれはしても声までかけられる勇者はいないだろうからなあ」  伊勢さんがこういう沈黙を勘ぐらない鈍感な人で良かった。そうそう、「ただの人避け」設定も追加しておこう。  そっと胸を撫で下ろしていれば、ピラ、と射的の券二枚を差し出される。 「でも、ずっと見回りじゃ息詰まるっしょ。サービスするからやってってよ」 「いいんですか?」 「もちろーん」 「ありがとうございます」 「いっいえいえいえ滅相もございません」  頼と俺、それぞれに対する伊勢さんのあからさまな態度の違いに複雑な気分になりながらも、券を受け取った。  まあ、食休めに丁度いいかな。  一旦行列の最後尾に並びなおし、射的の景品にひとつひとつ目を凝らした。一枚につき五発分。射的なんて数えるほどしかやった経験もないが、せっかくのタダ券だ、どうせなら何か獲りたい。 「何か欲しいものは?」 「えっ? ……ええと」  景品棚をじっくり品定めしていたためか、頼にそう尋ねられた。  並べられた景品をざっと眺める。菓子類がほとんどだが、中にはブランド物の財布に小物、リゾート地のペアチケットや、狙いにくいところにはランキング上位者の写真集などなど。  うーん。やるからには獲りたいが、改めて聞かれるとこれといって欲しいと思えるものはさほどない。  菓子類はつい一昨日、教師を訪ねた際に結果的に物々交換状態になったおやつをまだ消化しきれていないから別に欲しくないし、財布や小物も、すでに私物で一式揃えているものなので、わざわざ余分に持つことに意味を感じない。写真集はただ単に要らない。  つーかナチュラルにリクエストを聞かれたけども、これはセーフか? 「顔見知り」の範囲内か?  ……まあせっかくだし、いっか。頼の射的の腕も気になるし。  そして景品棚の一番上、気になるものを発見。  

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