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目に止まったのは、キャメル色に赤リボンのでっかいテディベア。
紗世 ……えっと、妹が好きそう。
数週間後には夏期休暇で地元に帰ることになるし、そのときの手土産にいいかもしれない。ただ、射的の景品にしては大きいし重量もありそうだな。50センチはある。
「何か見つかった?」
「あのテディベアが欲しいんですけど……しかし射的で取るには少し大きすぎ……どうしました?」
「……ギャップで俺を殺す気……?」
「え? あ、難しいなら他のものを、」
「いや───、一発で仕留める」
頼の空気が変わった。伊勢さんから射的銃を受け取り、手早く捲り上げられた袖から伸びる血管の浮いた腕が男らしく頼もしい。
チャキ……、と頼の大きな手が銃を構え、的へと狙いを定める。
真剣な横顔が文句なしで格好良い。それを証拠に、見物人が声も出さずに感嘆の息を吐いた。
引き金に長い指が掛けられ。
ぴん、と張り詰めた緊張感が走る。
───そして一発の銃声のあとには、拍手喝采と大歓声。
本当に、一発で仕留めやがった。
「……す……すご……!」
「はい、どうぞ」
「え、あ、ありがとう、ございます」
「どういたしまして」
ちょっぴり得意げな顔が年相応で、長く見つめていられなかった。
差し出されたテディをぎゅうと腕に抱える。見た目より柔らかくてふかふかだ。きっと紗世も喜んでくれる……絶対可愛くお礼を言ってくれる……。妹の笑顔を思い出すだけで自然と心が和み、口元がほころんだ。
あ、でも、頼は俺のリクエストに応えてくれたわけだから、俺自身がテディを欲しがっていると思って獲ってくれたのかも。
「あの……せっかく獲っていただいたところ申し訳ないんですけど、このテディ、妹へのプレゼントにしてもよろしいでしょうか……?」
「もちろん」
「ありがとうございます。きっと喜びます」
「……妹さん、いるんだ」
「あ、言ってませんでしたか?」
「ん……初耳」
そうなんだ、と噛み締めるように呟いた頼の表情がどこか嬉しそうに見えた。そう言う頼こそどうなんだろう。
兄弟とか、いるのだろうか。
一発目のテディベア獲得後も、さらに残りの四発にて、俺たちの前に失敗していた生徒の代わりに景品を取ってあげたり、菓子の詰め物を取ってギャラリーにプレゼントしたりと、貴公子様のサービス精神が遺憾なく発揮されていた。
甘いマスクの王子様フェイスのくせに銃を持たせたら百発百中って一体どんなギャップだよ。そういえば一年時の選択体育でも現役剣道部員や弓道部員に勝る結果を叩き出したと小耳に挟んだことがある。
頼と得物の組み合わせがこわいわ。底知れん……。
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