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隣でボソリと主張された対抗心は一旦聞き流しておこう。
どうやら今夜の頼さんは少々どころかだいぶ、表情も発言も素直だ。その理由については、まあ、あまり考えないようにする。
まずは生徒会として、七夕祭りの盛り上げ役として頑張ってくれる部活動生への応援が先だ。たくさんの書き込みがされたあの譜面、あの努力の一端を垣間見た者としても、是非とも成功を願っている。
「その衣装、よくお似合いですよ」
「……そう言って貰えると、有り難い」
「頑張って下さいね」
「……ん」
「演奏は何時から?」
「……交代制。俺の担当は8時から、四半刻」
律儀に頷く玖珂くんにほっこりしつつ、腕時計を確認。8時から四半刻ということは……8時から8時30分までか。そして現在7時50分と、もう間近に迫っている。引き留めてしまったかな。
ではまた、と軽く挨拶して、和風美男を祭櫓へと送り出す。
二言三言の短い応酬ではあったが、まあ俺も玖珂くんのことはまだよく知らないし、相手も同じだろうから、こうやって立ち話をするくらいの距離感がちょうどいい。
そして二人になっとところで、隣の人の、完璧なポーカーフェイスの下に隠されたモノに、思わず苦笑。
「玖珂くんとあなたは同じAクラスでしょう。何か話さなくて良かったんですか」
「玖珂は、どちらかといえばクラスでも単独行動が多いので。さほど交流が多いわけでもないですし……」
「あなたも、とっても似合ってますからね。浴衣」
「……!」
シンプルな紺の浴衣に濃紺の帯。一片の隙もない着こなしと身のこなし。派手さでごまかしがきかないからこそ分かる。つまり頼さん、すごく似合うのだ。
横をチラリと仰ぎ見ると、珍しく逸らされた。黒ピアスで飾られた耳はほのかに赤い。髪をゆるく耳にかけているせいか、表情の変化がよく見える。
こいつでも照れることがあるんだな、と思いながら、いつもの仕返しができてちょっと満足だったり。
「………どうも」
いつもよりぶっきらぼうな声に笑みを零す一方、胸中でぼんやりと考える。
わからないやつだなぁ、と。
頼にとってここ最近の俺は、『突然やってきた転入生に好意を寄せる副会長』のはずだ。親衛隊の中には「幻滅した」と言って隊から抜ける人間も何人かいた。
普通なら隊員へのフォローと俺の言動との板挟みで不満が出てもおかしくないのに、それでも頼は変わらず、「転入生を想う副会長」をそのまま、尊重する。
こいつが、俺を………そういう意味で慕っていることに気づかないほど、鈍くはないつもりだ。
だから尚更、解せなくて。
そもそも、好きなフリをし続けることに、罪悪感がないとは言わない。王道本人だけではなく、例えば頼を始めとする、俺を慕う親衛隊の人間に対して、不誠実であることは否定しない。
そんな俺の本心を知っても、こいつは変わらず俺の親衛隊隊長でいてくれるのだろうか。なんて。
本人には絶対に聞けない問いを頭に浮かべて、すぐにそれを掻き消した。
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