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「一人で回っているのか?」
「今は一人です」
「今は?」
「はい。ここのエリアに移るまでは、雪景色くんに見回りの同行をお願いしてました」
「雪景色、……ああ、お前の親衛隊か。随分と思いきったな」
親衛隊組織の機密レベルは親衛対象のランクに比例する。
つまり生徒会副会長である俺の親衛隊隊長の正体を先輩がすでに把握済みということは、この学園に存在する全25隊の親衛隊の情報を掴んでいるといっても過言ではない。予想の範囲内だけど。
まあ、志紀本先輩なら各隊の隊長クラスどころか、《総括隊》の構成メンバーさえ把握していてもさほど驚かない。
ちなみに《総括隊》とは、全親衛隊の司令塔役を担う親衛隊のトップを指す。
《総括隊》はこれといった親衛対象を持たない組織なので、その分オモテに出ることが無く、得られる情報も少ない。
俺自身も、先月の《月例会議》のようにたまに緊急メールが送られてくる程度のやり取りしかしてきておらず、一般生徒のほとんどに至ってはその存在すら知らない。
学園内でも指折りのシークレット機関だ。
「先輩こそお一人ですか? 園陵先輩は?」
「途中まで一緒だったんだがな。俺が傍にいるとチトセに話し掛けられない生徒もいたようだったから、抜けてきた」
絶対に一緒だと思ってた。
そういう関係ではないと分かってはいても、周りはやっぱ、彼らをセットだと思っているわけで。
まあ確かに、風紀委員長が近くにいる手前、副委員長に声を掛けられないヘタレな生徒もいれば、逆もしかり。
その証拠に、志紀本先輩の浴衣は若干、着崩れている。ここに来るまでに、こういう機会でしか触れないからといろんな生徒が集ったんだろう。何せ天下の委員長様がお一人で歩いていらっしゃる。
声をかける口実は簡単だ。
誕生日おめでとうございます、と祝いの言葉を述べればそれがきっかけになる。
……となると、園陵先輩の身の安全が一層心配になってきた。あんな大和美人が一人で歩いていたら男が放っておきませんって。
「園陵先輩、頭沸いた連中に絡まれていなければいいんですが……」
「チトセはあれでも護身術程度の心得はある。心配は無用だ」
「園陵先輩すてき……」
「チトセに限っては本っ当に正直だな、お前は」
「優しい方には相応の態度を返しているだけです」
「俺はお前に優しくないとでも」
「よく分かっていらっしゃるじゃないですか」
そんな雑談を続けている間にも、ぞろぞろと見物人は増える。
いつもより人数が多く、距離が近いと感じるのは、祭りの雰囲気や先輩の機嫌の良さにも原因がありそうだ。この人は会長みたいなサービスはしないにしろ、自分を慕う人間を雑にあしらうタイプでもない。
近くにいる男の娘の眼差しは、普段の無駄な女子力はどうしたと突っ込みたくなるくらいには雄々しい。今夜が好機とばかりにギラギラしている。純粋にこわい。
先輩も誕生日だから無礼講というか、ちょっとのおいたくらいなら大目に見そうだし、しかも園陵先輩が傍にいないから抑止力もない。
せっかくの誕生日なんだから、今日が終わるまで、この人の周りでは何も問題が起きなきゃいいんだけどな……。
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