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この人に限って自ら不祥事を起こすことは絶対にあり得ないと思うけど、問題は取り巻く周囲だ。なんか眼差しが危ない気がする。
ただでさえ今夜は寄せ集めの組織とあって、日頃統率が取れた風紀と比べて取り締まりが後手だ。
現時点で後処理業務がたまっているのに、これ以上仕事が増えるのは極力避けたい。
「一応言っておきますけど、誕生日だからって、羽目を外して問題を誘発するのだけはやめて下さい……、ね……」
──あ。
なんか、今の言い方、感じ悪い。
羽目を外してもいいだろう、年にたった一度の誕生日なんだから。
問題を起こすのはあくまで先輩の周囲にいる人間が発端だとわかっていながら、どうして志紀本先輩に釘を指す言い方を選んだ…?
風紀の委員長を務める先輩こそ、イベントの度に生徒会に対してそういった忠告をしてやりたいのが本音だろうに。自分が「風紀代理」になった途端にこの態度ではあんまりだ。
不快に思われなかったか不安になり、言い回しを撤回しようとした……ときにはすでに遅し、俺の頭の上に先輩の手のひらが伸びていて。
逃げる間もなく、園陵先輩がセットしてくれた髪を思いきりぐしゃぐしゃにされた。
「っっ、ちょっと……!」
「相変わらず、憎まれ口だけは達者だな」
「待っ……っ、もう、少し、まわりの目を気にしていただけませんか!」
「……風紀の仕事、引き受けてもらって悪い。おかげで、こちらの役員も祭りを楽しめている」
乱雑に掻き撫でられる手の下、取り零しそうになるほど小さな声。
言葉に詰まった。
そう、素直に言われると……こっちもどう返せばいいかわからなくなるからやめて欲しいというか、調子が狂うというか。撤回のタイミングを完全に逃してしまった。
指からなんとか脱出し、手櫛でなんとか髪を整える。そんな俺に対しても、志紀本先輩はクスクス笑っていた。機嫌が良い。
無性に腹立たしくなって抗議しようとするも、ピラリと差し出されたものを反射で受け取ってしまって、再び口が封じられる。
手渡されたのは、手触りだけでも上質な和紙だと分かる短冊の紙。もしやコレを礼の代わりにでもするつもりなのだろうか。
「お前にやる」
「……? これは先輩の分でしょう?」
「特に願う事もない」
「……まあ、願わずとも自力で叶えられそうですもんね」
「そういうこと」
一度はそんな自信満々なこと言ってみたいものだ。こういう呪 いはあまり信じていないのだけれど、断るのも何だか悪いし、ここは素直に貰っておこう。
自分の分を合わせれば二枚目。あれ、短冊って二枚吊してもよかったっけ?
ひとまず信玄袋へ収納。大丈夫かな、皺寄りそう。
お願いごとなあ。
改めて考えると、あまり浮かばないな。
願いというか、解消したい悩みならたくさんある。仕事量とか進路とか、問題児共とか王道とか、紘野の出席日数とか幼なじみのBL廃とか、他にもいろいろ。
短冊に書いた願い事が本気で叶うとはまさか思っていないが、改めて考えるとなるとなかなか絞れない。
「じゃあな」
「あ、……はい」
ぽん、とすれ違いざまに肩を軽く叩かれ、振り返った先には人混みに紛れていく先輩の後ろ姿。
それを横目に見送りながら、こんな日にも憎まれ口ばかりしか叩けなかった自分を省みて溜め息が出る。
……お祝い、言い損ねた。
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