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 時刻は着々と進む。  度々屋台の迷路に迷ったり、お祭りならではの商品を物色したり、揉め事を起こす生徒に厳重注意したり、グラウンドの方角から聴こえる篠笛の調べににんまりしたり、たまに変なのに絡まれたり、やけにクオリティが高いシルバーアクセ風の光るブレスレットを童心に返って衝動買いしたり……そうこうしているうちに、時刻は8時半。  屋台連なる通りから少し抜けて、空を見上げた。夏は日没が遅いと言っても、この時間帯ともなればもう空は暗い。 (あ……、天の川……)  確か、明後日の夜は新月だ。  今夜は月の大部分が欠けており、雲もひとつもないため、今夜はいつもよりずっと星が綺麗に見える。  満天の星空の中、太く長い天の川の存在は一層大きい。一際輝く夏の大三角が、きらきらと瞬きを繰り返している。  山中の夜空の景色は本当に素晴らしいと、この学園に来てはじめて知った。  昔、誕生日に母さんにせがんで買って貰った小型望遠鏡がなくても、肉眼ではっきり見渡せる。  柄にもなく夜空を見上げて浸っていたちょうどその時、後ろから肩を叩かれた。センチメンタルタイム終了。 「………どなたですか?」  そして振り向いた俺の第一声がこれである。  顔には某黄色い悪魔のお面。片手には某ネコ型ロボットの団扇。右の二の腕には某ネズミーマウスの抱っこちゃん。その他ヨーヨーやら風船やら、祭りの景品を大量に持ち歩く360度不審な男。  見える髪の色は紫がかった艶やかな黒。  それから、すらりとした身体、象牙色の地には薄碧の波模様、広く開けられた浴衣の衿。  いやほんと誰。  不審者として取り締まるべきか。 「……、…。二葉、先輩……?」 「………」  ぴんぽーん、とでも言いたげに親指と人差し指で輪っかがつくられる。  直感だったのにまさかの一発正解。  つーか何故無言。何故お面。 「これまた怪しい格好ですね。うっかり取り締まるところでした」 「む。ちと逃げておる最中でな。内緒にしてくれるとありがたい」  お面が少しだけ顔の上へとずらされる。その影からのぞく紫がかった黒目、右目の下の泣きぼくろ。正真正銘、二葉先輩だ。  途中で買った俺のかき氷(いちご+練乳)を見て、ぱか、と口が開かれた。やれやれ、食べ回し飲み回しはちょっと抵抗がある方なのだが、ここで頑として断るとノリが悪い認定されそう。  柄の長いスプーンでかき氷を一口分掬い、二葉先輩のくちの中へと差し入れた。二葉先輩は満足そうに笑ってかき氷をひとくち。そして再び面で顔を隠す。  恐らく粘着質なファンから逃げている最中なのだろう。二葉先輩の親衛隊は先輩自身に似たのか変わり者が多いと有名だし、撒くのも大変だっただろうに。  それにしても今日は何かと顔見知りに会う。おかげでぼっち巡視も退屈しない。 「ふぅ……面を付けて走るとなると周りが見えぬのが些か不自由だな。何度迷うたことか」 「あなたのファンの方々も話せばきっと分かってくれますよ」 「否、追っかけから逃げておるのではない。ただの食い逃げ」 「………」 「てへ」  照れ笑いする二葉先輩ににっこり笑顔を返した。そして逃げないように先輩の手首をしかと捕まえる。  お巡りさん、この人です。  

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