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「匿う理由がなくなりました」 「ま、待て。こちらにもやむを得ない事情があってだな」 「自首しましょう。正直に名乗り出ましょう」 「悪気はなかったのだ。信じておくれ」 「ちなみにどこの店ですか」 「焼きそばでござる」  あっ俺も食べたい………じゃなくて。  近くの屋台で買ったオモチャの手錠でとりあえず二葉先輩を逮捕。速やかに清算してほしい。俺の後処理を減らすためにも。  まあここで見つかったからには本気で食い逃げ犯になるつもりもないだろうし、こういうごっこ遊びにはノってくれるタイプの人だ。当の本人もすっかりお縄についた泥棒のように大人しい。  お面の男に手錠を掛ける副会長、という構図は周りから見れば奇異に映るでしょうけども。 「意外だな。お主、一人で回っておったのか」 「そう仰る二葉先輩こそ。お誘い、多かったでしょう?」 「誘われるよりも誘いたい派での」 「誘いたい相手でもいるんですか?」 「残念ながら相手はおらぬ。………だが、逢引きは(おのこ)から申し込むのが筋であろう?」  二葉先輩はあれかな。女は男の三歩後ろを歩け、みたいな恋愛観を持っている人かな。ちなみにこの学園では誘う方も誘われる方も男だというマジレスは不要です。  最近の肉食系女子の台頭を思えば必ずしも男からとはいかないだろうが、男なら自分から誘うのが当然、という気持ちも分からなくはない。  本気で狙っている相手ほど、自分がリードしたい、他に盗られたくない、そんな考えが先行して我先にと動いてしまうのが男の性というもので。  しかしここではたと、思い出す。 『………俺と、七夕祭りに行きませんか』  業務の一貫だと重々理解していた頼が、どうしてあのとき改めて俺を祭りに誘ったのか。どうして、俺から仕事としてお願いした見回り業務の依頼を上書きするかのように、誘い文句を口にしたのか。 「……」 「…? どうした、副会長殿」 「なんでも、ありません」  あいつの真意に気付いて、理解して、何とも形容しがたい気持ちになる。  どれだけ俺の中で巡視だの「風紀代理」の仕事の一貫だの言い張ったところで、同性同士の恋仲が当たり前の学園(ここ)では紛れもなくデ………いやいや、だめだ。俺がそこを認めてしまったら、それが真実になってしまう。  親衛隊員と親衛対象のあいだには明確な線引きがあると、隊内法規で決まっている。他でもない俺のせいで、頼を隊律違反者にするわけにはいかない。  それにしても……いつもいつも息をするように俺を"女扱い"する頼の習慣はどうにかならないものか。  あのふざけたランキングが代表例だが、苦手なのだ、本来は。  この学園の一部の生徒みたいに、完全に受け身に徹する生徒が相手ならまだしも、俺だぞ、相手は。  あいつほんとに趣味悪い。 「───隙アリ、」 「っひ…、………っ、コラ…っ!」  認めよう、二葉先輩から数秒でも目を離した俺が悪かった。  

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