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 項にあてられたのはきんきんに冷えたラムネの瓶。  不意打ちの攻撃を受けた俺の反応を見て、二葉先輩はイタズラが成功した子供のように笑う。  これでも一コ年上なんだよなこの人。本当に志紀本先輩や園陵先輩と同い年なのか、時々本気で疑わしい……。   「考えごとの途中ですまぬが、副会長殿」 「なんでしょうか……」 「開け方が分からん」 「あー………貸して下さい」  ラムネのガラス瓶を落とさないように気をつけながら受け取り、玉押しで栓となるビー玉……に見せかけた本物の宝石を中へと押し込んだ。  勢いよく宝石がラムネの中へと沈み込み、しゅわしゅわと気泡が瓶の中で弾ける。祭りといえばやっぱりこれが風物詩だな。  一部始終をじっと見ていた二葉先輩が、おお、と目を丸くして関心を露にする。 「いやあお見事。よく考えられたものだな」 「二葉先輩でも知らないことってあるんですね」 「神宮ほど庶民文化に疎くはないがの。ところで副会長殿、今は何時だ」 「今は……8時半を回ったところですね」 「ほお。花火はそろそろだな。やれやれ、それまでには精算を済ますかの」 「ぜひそうして下さい」  打ち上げ花火が始まるのは9時ちょうど。あと30分を切った。  何万もの提灯や校舎の簡易照明が一斉に消された数秒後、夜空に咲く大花火は地上からもよく見えるんだとか。  資金が底なしとあって規模が大きく、打ち上げ時間も長い。  ちなみにここ、月城学園は山中の若干標高が高い土地にあり、比較的海が近い。故に、打ち上げ花火は海上で行われる。  そんなことを考えていたときだった。  二葉先輩の口から、他愛ない雑談の延長とばかりに投下された話題に、驚きで声がでなくなったのは。 「そうそう、我も別に食い逃げしたくてしたわけではないぞ。それがな、ちょうど焼きそばを食しておる最中に、金魚すくいに参加したげな猫を見つけてのぅ」  猫。ねこ。  …………ねこ、だって……? 「白と灰色の猫だ。立食パーティーの際に、生徒会で飼い始めたと宣言しておっただろう? しかしこんな遅い時間に放し飼いはさすがに有り得ぬと思うて、つい後を追ったのだが………どうした?」  タイミングよく、携帯が着信を伝える。嫌な予感しかしない。  相手はタツキだった。  喋ることを苦手とするタツキからの電話が珍しく、ますます事の重大さを示されているようで。  一度唾液を飲み下し、通話ボタンをタップする。 「……はい」 『っ! りお、ど、しよ……!』 「…タツキ」 『のあ、が、……────にげた』  紛れもない、緊急事態。  

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