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  「………っ 、………は……?」  目を見開いたまま、生徒たちの後ろ姿を呆然と見送った。  喧騒に融けた己の声は、自分が発したものとは思えないほど掠れていた。  ノアの居場所が割れて安堵したその矢先、再び情緒を掻き乱される。 『あの場所は他の役員()たちより君の方が断然訪ねやすいだろう? 良かったら、君が迎えに……もしもし? 支倉くん?』 「ぁ……、は、い。」 『どうか、した?』 「いえ。……了解、しました。すぐに、向かいます」  滑らかに声を出せず、返答がもたつく。  絡まる舌をなんとか動かして、守衛さんが何か言う前にこちらから通話を切った。  先ほどすれ違った生徒たちの会話がぐるぐると脳内に螺旋を描き、急速に埋め尽くされる。すぐさまノアを迎えにいかなければいけないのに、そこに居るかもしれないひとのことを思うほど、足が鉛のように重くなる。  だって俺が見た限りでは、いつも通りで。  いつもと変わらない態度で、楽しそうにしていて。  そもそも、俺の憎まれ口ひとつ、気にするような人じゃなくて。  それは分かっているのに。 『───誕生日だからって、羽目を外して問題を誘発するのだけはやめて下さい』  口許を覆う。  触れた指先は小刻みに震えていた。 「……っ……なんで俺、あんなこと言っ……ッ」  お袋さんがもういないって。  誕生日に亡くなったって。  そんなこと知らなかった。初めて聞いた。  先輩にとって、この日がただ祝われるだけの日ではなかったことを、想像すらしていなかった。  先輩にとって誕生日がどんな日かも知らず、あんな、無神経なことを。 『特に願うこともない』 『願わずとも自力で叶えそうですもんね』  本当に?  本当に、何も願うことはないのか。  自力で叶えられない願いなんてこの世には山ほどあるというのに。  何も知らない俺の言葉は、軽率ではなかったか。残酷ではなかっただろうか。 「───リオ? なぁ、リオってば!」  唐突にグッと後ろから肩を引かれた。  強制的に振り向かされて見た先には、王道の姿。心なしか、驚いた顔の。 「どう……したんだ?」 「ル、イ」 「さっきから、呼んでんのに全然気づかねえし」 「それは……すみません」  ああ……全然、気付かなかった。  王道のことはいつも意識して意図的に避けているのに、そんな余裕はなかった。話しかけられた今ですら、「見つかってしまった」という焦りが一向に沸いてこない。  王道の後ろには、それぞれ甚平を着た取り巻き三人の姿。俺たちを見て、それぞれ違う表情を浮かべている。  

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