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「別にいいけど。リオ、今ひとりか?」 「……、ええ……」 「それならオレらと一緒に回ろーぜ!」  いつもの、俺なら。  こんなとき、どうやって躱していただろうか。  きっと、断るためにあの手この手の言い訳を並べ立てて、にこやかに別れていたことだろう。  祭りの真っ最中でぽつんと立つ俺に善意で声をかけた王道へと、後を引かないように、不審に思われないように、機嫌を窺いながら。  そう───…いつもなら。 「すみませんが────、今は無理です」  くるりと反転し、気付けば走り出していた。取り繕おうと考える思考すら今は邪魔だった。  後ろで俺を引き止める王道の声が聴こえても振り返らず、先へ先へと急ぐ。  すれ違う生徒という生徒が驚いた顔で俺を見る中、裾と下駄の走りにくさに四苦八苦しながらも、人混みを縫って、屋台の並びに沿って。  そのたびに衿の間から零れた三日月のネックレスが、チャリリチャリリと小さく音をたてた。  和太鼓の重い響きに急かされる。  上体をぐっと支える背骨へと打ち鳴らすかのように、太鼓の鼓面とバチが奏でる重低音が低く深く脳を痺れさせる。  ただ、足だけが、別の生き物のように動いているような感覚。 『ノアが今、居るのは────風紀委員室だ』  風紀の誰かが預かっているのか、志紀本先輩本人が預かってくれたのかは定かではないけれど、何となく、後者だという確信があった。  風紀委員に与えた今夜の休みを返上させるくらいなら、自分の誕生日だろうと自ら面倒ごとを引き受けるような人だから。  屋台の並びを抜けて、その勢いのまま校内へと飛び込んだ。  目指す先は真っ直ぐ、風紀委員室へ。  エレベーターには目もくれず階段を駆け上がり、足元を照らす照明だけが灯された薄暗い長い廊下を一直線。  どうしてこんなに焦っているのか、何が自分をここまで急かしているのか、自分でも理解できないまま。 「……はぁ、…ハ……っ。……ふ、ぅ……」  ゆっくり減速して、息を整えて。  目の前を塞ぐ大きな自動ドアの前で足を止めた。勢い収まらぬまま、インターホンを一度鳴らす。  中の人間が俺の来訪に気付いたようで、数秒後、解除される部屋のロック。  大きく息を吐き出して、一歩足を踏み出した。  時刻は20時59分。  何万もの提灯と照明が一斉に消え、学園にしばしの暗闇と静寂が訪れる。 * * *

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