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人的な光が極端に減った山中、さらに月明かりがほとんど影響しない新月付近の夜空では、幾千もの星々が一際明るく輝く。
瞬く間に夜が塗り替えた屋台迷路の道の中央。これから始まる花火を前に夜空を見上げ、期待で胸を膨らませる生徒がほとんどの中、佐久間ルイは忙しなく背後を振り返っていた。
「どうした、ルイ。後ろばっか気にして」
「ん……いや、なんでもねーよ!」
佐久間の様子に気付いた彼の同室者・東谷が、その見目を裏切る優しげな顔で尋ねるものの、彼は首を横に振って東谷の追求を拒んだ。
何を気にしているか、答えはひとつ。
先ほどバッサリ己の誘いを断って人混みに消えた、副会長の遠ざかる背中が陽炎のようにチラチラと脳裏を過る。
どこに行ったのか。自分の誘いを断ってまで。何故断ったのか。少し前までは、努めて自分に優しかったのに。
そんな思考を重ねて、巡らせて、最終的には匙を投げる。
(……わかんねえ)
佐久間ルイはよく鈍感だと言われがちだが、直感的なものに関しては群を抜いて鋭い方だ。そして、順を追って考えられないほど物事に対して愚かでもない。
そんな彼にとって、生徒会副会長のことは当初……入学後一ヶ月半くらいまでは、そこまで着目していた相手ではなかった。あくまで、自分に賛同し、助けてくれる不特定多数の人間のうちの、一人。自分を形成する世界の一部。
その認識が塗り替えられたのは、やはり6月下旬。召集後の、あのやり取り。
(最初は……オレのことを気に入ったって言ってた)
(けど、よくよく思い返すと、他の生徒会のやつらと比べてもリオとの交流は少なかったように思う。返事はいつも当たり障りがなかった。ヒラヒラと躱されてるみたいに)
(中間考査のときはオレを助けてくれた。それと同じ口で、あの日はオレを責めた)
──「何を考えているんだろう」。
気にしてはいけないとどれだけ脳内で唱えても、結局は同じ疑問に終着する。
振り切っても振り切っても、記憶の残滓が消えない。
「あなたのせいですよ」、と、自分を真っ直ぐ見据えた、あの瞳の強さ。
あのときはじめて、ゆるやかに違和感を育てていた綺麗な仮面の向こう側を垣間見たような気がしていた。
一体何を思っていて、何が目的で動いているのか。嘘か、真か。疑うことならいくらでも出来る。しかしその奥底の思考が読めない。本物がどこにも見つからない。
これならまだ、一貫とした目的意識が全面に見える親衛隊のような相手の方がこちらも対応が取りやすいのに。
「あ! 上がった!」
周囲が色めき立つ。
考えに没頭していた佐久間は弾かれたように顔を上げた。
気にしている場合ではない。余所事に気を取られていたら、自分が此処へ来た目的まで見失ってしまう。早く、捜さないといけないのに。
背後を振り返る。しかし咄嗟に首を振って、副会長の幻影を脳内から掻き消し、友人たちのもとへ駆け寄った。
彼らが見上げる先、遥か上空で、一条の光が闇空を切り裂き、天へ天へと駆け上がる。
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