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 果てしなく重い沈黙が続く。  鳴り止まない花火が我先にと夜空を彩る。  待てども待てども、先輩からの返事はなかった。身体の後ろで組んだ指先は緊張のあまり冷えきり、ひとりでにてのひらを擦り合わせたりつねったりと落ち着きがまるでない。  じわじわと、気恥ずかしさが血管を通って全身に巡った。  何でもいいから何かを言ってほしい。この際からかいでもいい、無反応だけは。  花火の眩しさから目を逸らす。後ろ手に体重を預けていた先輩の上半身が、ゆっくり起こされたことが視界の端で捉えた。  掻き消されそうな小さな声を、取り零すことなく耳が拾う。 「…………。花火が煩くて、聴こえなかった」  ま じ か よ。 「もう一回」 「、な……っ」  花火てんめえ、止まれ。うるさい止まれ。  そう念じたところで止まるはずもない。ああくそ、こうなればヤケクソだ、何度だって言ってやる。引き結んだ唇をもう一度意地でこじ開ける。その寸前。 「……支倉。だから、聴こえないから」  いつもより低い声だった。  そのせいだろうか。一語一語に込められた響きが、やけに重く感じたのは。 「近くへ、来い」  そう言って手招かれる。  何だろうと不思議に思いながら数歩近付き、部屋の中央で止まった。しかしこれではお気に召さなかったらしい。 「もっと」 「? はい」 「まだ遠い」 「……まだ、ですか?」 「まだ聴こえない」   一歩、二歩、三歩。  意図を掴めぬまま指示通り歩み寄る。次第に見え始める相手の輪郭。距離にして約1メートル。  そして足をピタリと止める。  俺を見上げる志紀本先輩の瞳と視線がしっかり交わったその瞬間、急速に、この部屋に今、二人っきりだという意識が脳に流れ込んできた。ドクン、と心臓がやけに深く重く動き出す。 「支倉、………もっと、傍に来い」 「っ……」  無理だ。  首を横に大きく振って拒絶を示す。  これ以上近付いてはならないと、直感的に思った。  そこにいつもの先輩はいなかった。僅かに寄せられた柳眉が、切羽詰まっているように見えて。訳もなく焦りが芽生え、おかしな緊張が脈動を急き立てる。  どうにか空気を入れ換えようと、捲し立てるように反論した。 「こっ……この距離ならさすがに聴こえますよね!」 「…聴こえない」 「一度しか言いませんから、先輩、誕生、び……っ」  予備動作もなく伸びてきた右手に左手首を捕らえられる。  告げた瞬間一目散に離れようと思った俺の魂胆を見越していたのだろう。  今更ながら思い出す。声が届かずとも、この人が唇の動きだけで相手の言葉を読めたことを。 「……そういえば、お前には貸しがイロイロあったな」 「、は、……な、に」 「今夜で帳消しにしてやる」 「え……わ…っ!」  俺の手首を掴む手によって強い力で引き寄せられたと気づいた時には、もう何処にも逃がしてはくれなかった。  

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