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 ベルトで固定し、ずり下がる心配がなくなったところで、改めて部屋の内装を見回す。  はじめて入る場所だ。窓から見える景色や方角的に風紀委員室の内部……で間違いはないんだろうけど、この部屋は知らない。  昨夜、一体何が。  それを知る人間は目の前の先輩ただひとり。 「さて、落ち着いたところで、昨晩生徒会(おまえら)が起こした問題についてだ」 「え゛……問題……?」 「新人役員(・・・・)の監督不行届き。立食パーティーで、俺たち委員会の目を掻い潜ってまで子猫(ソイツ)を飼うと押し通した上での脱走未遂だ。それなりの処罰は当然、受けて貰わなければ道理に合わない」 「お、仰る通りで……」  そうだ……脱走の件を一番知られたらマズイ相手に、ノアを保護されてしまったんだ……。  昨日はとにかく情緒が不安定で、今の今まで置かれた状況にまったく気づいていなかった。ペット禁止の校則違反を"生徒会宣伝係"と銘打つことで敢行しておいて、ここに来て「猫だから言うこと聞かなくてもしょうがない」は筋が通らない。  むしろ一晩待ってくれただけ良心的だと思うべきだ。 「お前らへの処罰は……そうだな…」  しかし恐ろしいものは恐ろしい。  先を急かしたいのを抑えて、その場で背筋を伸ばした。ベッドにゆったり腰かける志紀本先輩に対し、こちらはまさに直立不動。  扇情的な浴衣姿のまま足を組み顎に指を沿え、吟味するさまが爽やかな朝にまったく似合ってない。  そして当事者のノアときたら志紀本先輩のお膝元だ。呑気に後ろ足であたまを掻いている。寝返ったな、ちくしょう。 「生徒会一人につき、反省文5枚」 「……………はい???」  そ…………それだけ……?  完全にビビり倒していたものだから、ハンセイブンの意味を理解するにもしばらく時間がかかった。  はんせいぶん。反省文。それって俺が知ってる日本語で合ってる?? 「返事は。まさか、異論でもあるのか」 「えっ、、、い、いいえ、勿論、従いますけど……その程度の処分で済ませてしまって宜しいのですか……?」 「もっと厳しい仕置きをご所望で?」 「! 滅相もないです……!」  ぶぶぶんと頭を大げさなほど左右に振って仕置きコースを固辞する。  しかし納得はできない。俺を含め、ほかの生徒会メンバーだって今回の脱走未遂は"自分たちがおかした失態"だと正しく認識しているはずだ。問題児四人衆のいつものボヤ騒ぎとは訳が違う。  生徒会に対して、風紀が甘い判断を下す理由はない。だからこそ裏を疑ってしまう。例えば……。 「───例えば俺が、今回処罰を軽くすることで生徒会に貸しを作り、後々引き合いに出して主導権を握る………なんてことは考えていないから安心しろ」 「……。」 「お前は当事者側だからこそ甘いと感じるんだろうが、客観的に見ても、今回のコトは取り立てて騒ぎになっていない。だからこの処置が妥当だと思っただけだ」  腑に落ちない俺の態度を見て一度肩を竦めた先輩は、昨晩の状況も絡めて減軽に至った理由を説明してくれた。

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