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まずひとつに、ノアを目撃した人間自体がそこまで多くはなく、そのほとんどが猫のお祭り参加を微笑ましく平和に見守る者ばかりで大騒動には至らなかったこと。
誰にも危害を加えることなく、誰も危害を与えなかったこと。
役員の過失ではなく、脱走だったこと。
他の組織をむやみに巻き込まず、自分たちだけで捜索していたこと。
そして……風紀の代理を勤めたことによる恩情。容赦(会長には絶対聞かせられない理由だなと思った)。
それでもさすがに反省文5枚×6人は誰も納得しないんじゃなかろうかと食い下がると、先輩がちょっぴり悪いカオで嗤った。嫌な予感がした。
「今回の場合、自分たちの失態に対する処罰をお手柔らか に済まされた方が、より責任能力を高められるだろうと判断した。現に、お前にはよく効いている」
「…………」
「今回のこと、せいぜい役員同士で話し合えよ。この俺の目を欺いてまで、組織に引き入れた貴重な人材なんだろうからな……?」
あ……やっぱり、無断でノアを生徒会の一員にしたこと、容認したわけではなかったんですね……。心なしかトゲを感じます……。
消え入りそうな声で「重ね重ね色々とすみませんでした……」と平謝り、ノアを捕まえ(ゲージ代わりに洒落た鳥かごを貸して貰った。昨夜はこの中にエサを仕掛けて捕まえたとのこと)、そそくさ退出しようとすると、素足を指摘されて呼び戻されてしまった。
「鼻緒が切れて、校舎のどこかに置いてきました」「どのルートを通ってここまで来たのか思いだせまん」。
呆れられる覚悟で正直に打ち明けると、予想に反して志紀本先輩は嫌な顔ひとつ見せずに外履きを貸してくれた。どこまでも至れり尽くせりだ。
身嗜みを整え、世話になった礼を言い、風紀委員室から退出する。
音もなく自動で閉じたスライドドア。俺が出た数秒後にロックがかかり、目の前には真っ直ぐ伸びた無音の廊下。昨夜のお祭り騒ぎが嘘に思えるほど、静かな校舎。
ぺたぺたと素足で歩き、エレベーターの前にたどり着いたところで、風紀委員室を振り返った。
(いつも通り………だったな……)
まるで昨夜の出来事が、夢か幻だったかのように。
通常運転の先輩で安心したような、肩透かしを食らったような、複雑な心境のまま、ノアがおさまる鳥かごをぎゅっと胸に抱いた。
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