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* 「───昨日はごめんね支倉くん! 俺のせいでとんだ迷惑を……」 「だ、大丈夫でしたから、あの、頭を上げて……」  遠回りしたのち生徒会にたどり着いた俺を出迎えたのは、今にも土下座しそうな勢いの守衛さんの姿だった。  待て待て俺が居たたまれないから。  土下座しようと沈みこむ身体を懸命に押し止める。  守衛さんは昨夜のあいだ、俺たちが風紀代理としてスムーズに動けるようにとずっと指示役として協力してくれていたのだ。ノアの脱走は何も彼だけの責任ではない。  ノアの場所を特定してくれたのも結局は守衛さんだし、この目の隈だし、果たして誰が責められるだろう。  なんとか丸く収まったんだからこの件はチャラでいいと思う。だからほんとに土下座はやめてください。 「そ、それよりこちらこそ、すみません。あのあと、連絡も入れず」 「ううん、それは大丈夫……。代わりに横峰くんから事情は聞いたから」 「タツキに?」 「うん。その横峰くんが、談話室で支倉くんの帰りを待ってる。ほかの子は深夜越えたところで部屋(うえ)に上げたけど、横峰くんだけは梃子でも動かなくてね。………何かあった?」  タツキ個人とは特に何もなかったけど……ああでも、名付け親としてノアを一番心配しているのは、きっとタツキだよな。  そうなれば早く無事な姿を見せてやらねば。  それにしても何故タツキが事情を知っているんだろう。そのあたりを疑問に思いながらも、談話室に目を向けた。  「郵便物が届いてるよ。君の部屋の前に置いてるから、後で確認してね」と付け加えた守衛さんにはひとまず礼を述べ、談話室へと足を運ぶ。  両開きの扉をゆっくり開き、中の様子を窺った。朝の陽射しが差し込む談話室、絵本の中にでも入り込んだかのようなレトロな空間。  こくりこくりと揺れる頭をソファ越しに見つけて、静かに近付く。 「タツキ」 「………んう」  寝ぼけているのか、前に立って呼びかけた俺の腹にごろごろとすり寄るタツキの頭をぐっと押さえて止める。  そのあたりはやめろ。犬かお前は。 「……んんん」 「ほら。早く目を覚まして下さい」 「んー……、、りお?」 「ご心配をおかけしました。お早うございます」 「…………、りお……」 「どうしました?」  ぽす、と腹にまた顔を埋め、くぐもった声で俺の名を繰り返す大型犬。  すん、と鼻を鳴らす音。探る動き。  そこは擽ったいから本気でやめて欲しいとは言い出せる雰囲気でもなく、逃げ腰になりながらとりあえず頭を撫でて先を促す。すると手首をがっちり掴まれた。何すんじゃい。 「…昨日……なつめと…」 「え……?」 「………何か……あった…?」  「ナツメ」って……志紀本先輩のことだよな……。  ぽつりと落とされた言葉は、どこか確信めいていて。俺を見上げるその表情は、純粋な心配というより訝る色の方が濃い……気が、する。  証拠に、俺の手首を捕らえる指にいつもより力があるというか、謎の訴えを感じる。フレーズごとに言葉を切るから分かりづらくはあるが、受ける眼差しの真剣さはまるで詰問のそれだ。  

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