388 / 442
9
本来お祝いすべきは俺の方なのに、与えられてばかりでなんだか申し訳ない。
男としては何かお返ししたい……けれどお返しは要らないと言われてしまったから、『園陵先輩が困ってたら例え火の中水の中何が何でも助ける券』×100枚を自分の中に課すことにした。
『支倉様、その……質問しても良いですか』
「はい! 洗いざらい話します!」
『ふふ、ではひとつだけ………昨晩、風紀のお部屋に向かわれたことは、横峰様から窺っております』
「あ、そうなんですか。ん、タツキから?」
『ええ、横峰様から。それで………お会いになられましたか?』
「志紀本先輩とですか?」
『はい。花火の時間帯は毎年、お部屋でお過ごしなさるので。携帯は電源を切って、お部屋も鍵をお掛けになって』
「そうだったんですか……」
知らなかったな……。
去年の七夕祭りはどちらにも会わなかった。去年は祭りの前日の午後にコンサヴァトリーでちょっとした茶会を開いたのだ。
だから別に誕生日当日に会わなくともいいと思ったし、今年みたいに隅々練り歩くこともしなかった。まあまだ警戒心バリ高の時期だったし、一緒に回ったのが紘野だ。あいつが一時間も人混みの中を付き合ってくれただけ奇跡に近い。
『それで……志紀本様と、七夕の夜に、お会いになられたんですね……?』
「え、ああ、まあ。ノアが向こうにいましたから、仕方なく入れてくれたんでしょうけど。それがどうかされたんです?」
『いえ、いえ、何も。………お返しなら、それでじゅうぶんです』
……何がじゅうぶんなんだろう?
よくわからないが、『園陵先輩が困ってたら例え火の中水の中何が何でも助ける券』×100枚を拒否されたことだけはわかった。
別にいいもん、どうせ自主的に助けるし(開き直り)。
謎を残したまま通話は終わった。
ミステリアスな園陵先輩も嫌いじゃない。むしろすき。
原稿用紙と筆記用具、充電器と暇潰し用の本をクラッチバッグに入れ、ちょっと遅い朝食代わりに焼き饅頭(クマちゃんより)と紅茶(養護教諭より)をつまむ。
昨日は露店で色々食べたので、腹はあまり空いていない。
バッグとクリーニングに出す衣類を持って、部屋を出た。
校舎を目指す道中、運動部の掛け声がどこからともなく響いてくる。授業は休講だけど、運動部はフル稼働だ。テスト週間明け最初の午前練、運動部は特に怪我が多くなる傾向。
当番は暇だと決めつけるには早いかもしれない。
「部活、か……」
まだ少しだけ時間はある。
ちょっと、寄り道して行きやしょうかね。
ともだちにシェアしよう!